秒針


01540
葱の花しろじろと風に揺れあへり戻るほかなき道となりつつ
ネギノハナ シロジロトカゼニ ユレアヘリ モドルホカナキ ミチトナリツツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.8
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (1)


01541
木洩れ陽に騒がしく光りゐし水の不意にくらみて風の過ぎゆく
コモレビニ サワガシクヒカリ ヰシミズノ フイニクラミテ カゼノスギユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.8
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (23)


01542
草むらに置き去られたる画架の前さむざむと誰のまぼろしか立つ
クサムラニ オキサラレタル ガカノマエ サムザムトタレノ マボロシカタツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.9
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (28)


01543
橋下の水のをりふし透きとほりわが沈めたる赭き石見ゆ
ハシシタノ ミズノヲリフシ スキトホリ ワガシズメタル アカキイシミユ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.9
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (40)


01544
カスタネット鳴らしつつ行く少年も次第に溶けて夕靄のなか
カスタネット ナラシツツユク ショウネンモ シダイニトケテ ユウモヤノナカ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.9
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (3)


01545
褐炭の山のごときを越えゆけり身を彩らむ鱗も持たず
カッタンノ ヤマノゴトキヲ コエユケリ ミヲイロドラム ウロコモモタズ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.10
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (32)


01546
秒針がしきりにわれの髪に触れ廻ると思ひつつ眠りたり
ビョウシンガ シキリニワレノ カミニフレ マワルトオモヒ ツツネムリタリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.10
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (5)


01547
時ながく堪へゐしごとし風立ちてしじに乱るる穂すすきのさま
トキナガク タヘヰシゴトシ カゼタチテ シジニミダルル ホススキノサマ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.10
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (64)


01548
ポケットに喪章をたたみ持つことのまたよみがへる雑踏のなか
ポケットニ モショウヲタタミ モツコトノ マタヨミガヘル ザットウノナカ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.11
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (56)


01549
受付の錆びしペンもて旧姓に戻れるわが名書くほかはなき
ウケツケノ サビシペンモテ キュウセイニ モドレルワガナ カクホカハナキ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.11
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (58)


01550
藻の花のゆらぐと見ればいつの日も創持つ魚の遅れて泳ぐ
モノハナノ ユラグトミレバ イツノヒモ キズモツウヲノ オクレテオヨグ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.11
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (65)


01551
争はぬ性持てる身のうとましくはめしまま洗ふ白の手袋
アラソハヌ サガモテルミノ ウトマシク ハメシママアラフ シロノテブクロ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.12
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (96)


01552
距離感の俄かに薄れ送られし素描の風車廻り始めつ
キョリカンノ ニワカニウスレ オクラレシ ソビョウノフウシャ マワリハジメツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.12
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (95)


01553
切り口を酢に漬けて挿す紫陽花のながく保つといふこともなし
キリクチヲ スニツケテサス アジサイノ ナガクタモツト イフコトモナシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.12
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (73)