惑はしのこゑ


01568
伝言板のわが名すばやく拭き消して駅を出づれば木枯らしの町
デンゴンバンノ ワガナスバヤク フキケシテ エキヲイヅレバ コガラシノマチ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.18
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (38)


01569
喪の花を運ぶ自転車行きてより呼び醒まされしごとく歩めり
モノハナヲ ハコブジテンシャ ユキテヨリ ヨビサマサレシ ゴトクアユメリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.18
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (42)


01570
複製のモナ・リザ仰ぎつつ待ちていかなる人に会ふわれならむ
フクセイノ モナ・リザアオギ ツツマチテ イカナルヒトニ アフワレナラム

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.19
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (85)


01571
背景のなべて消えゆき庭石の一つに午後の日ざしあつまる
ハイケイノ ナベテキエユキ ニワイシノ ヒトツニゴゴノ ヒザシアツマル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.19
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (16)


01572
ストローにすきとほりつつ珈琲の昇りゆくさまふとたどたどし
ストローニ スキトホリツツ コーヒーノ ノボリユクサマ フトタドタドシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.19
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (18)


01573
偽りを言はねばならず言ひしあときらめく波の寄せ来るごとし
イツワリヲ イハネバナラズ イヒシアト キラメクナミノ ヨセクルゴトシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.20
【初出】 『形成』 1966.5 「無題」 (5)


01574
惑はしの声たえまなく降りそそぐ広告灯のめぐる空より
マドハシノ コエタエマナク フリソソグ コウコクトウノ メグルソラヨリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.20
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (70)


01575
混みあへる夜のバスのなかリゾールの臭ひもいつかうすらぎゐたり
コミアヘル ヨノバスノナカ リゾールノ ニオヒモイツカ ウスラギヰタリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.20
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (52)


01576
交はすべき言葉も知らず夜の街の吹雪の底を歩み続けき
カハスベキ コトバモシラズ ヨノマチノ フブキノソコヲ アユミツヅケキ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.21
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (34)


01577
鳥の羽のごとき落ち葉をふりこぼすメタセコイアも旅ゆきて知る
トリノハネノ ゴトキオチバヲ フリコボス メタセコイアモ タビユキテシル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.21
【初出】 『形成』 1966.3 「無題」 (6)


01578
近づきて次第にさびし赤土をはだけて何か掘りし跡あり
チカヅキテ シダイニサビシ アカツチヲ ハダケテナニカ ホリシアトアリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.21
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (15)


01579
あたたかく雪を被ける羅漢のなか見知らぬ祖父の顔もあらむか
アタタカク ユキヲカヅケル ラカンノナカ ミシラヌソフノ カオモアラムカ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.22
【初出】 『形成』 1966.4 「無題」 (1)


01580
蜃気楼など見ずに逝きたる父母とながき停車に目ざめゐて思ふ
シンキロウナド ミズニユキタル チチハハト ナガキテイシャニ メザメヰテオモフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.22
【初出】 『形成』 1966.1 「無題」 (5)


01581
エンヂンの波動かすかに伝ひゐて眠りの底に雪降りつもる
エンヂンノ ハドウカスカニ ツタヒヰテ ネムリノソコニ ユキフリツモル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.22
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (43)