みどりの繭


01582
さまざまの網目をくぐる夢なりき僅かばかりの砂金を持ちて
サマザマノ アミメヲクグル ユメナリキ ワズカバカリノ サキンヲモチテ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.23
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (66)


01583
仰ぎ見るステンドグラスいつの日もうなだれて使徒の幾人歩む
アオギミル ステンドグラス イツノヒモ ウナダレテシトノ イクタリアユム

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.23
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (39)


01584
われらにて絶えむ系譜を悔やまねど樒花咲く淡き緑に
ワレラニテ タエムケイフヲ クヤマネド シキビハナサク アワキミドリニ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.24
【初出】 『形成』 1966.7 「無題」 (7)


01585
何事か終らむとして土の上にラインひとすぢ引かれてゆきぬ
ナニゴトカ オワラムトシテ ツチノウエニ ラインヒトスヂ ヒカレテユキヌ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.24
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (55)


01586
さまざまの角度に鏡の映りあひ騒がしき家具の売り場過ぎゆく
サマザマノ カクドニカガミノ ウツリアヒ サワガシキカグノ ウリバスギユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.24
【初出】 『形成』 1966.4 「無題」 (8)


01587
雪の日のためのストール選ばむに身に添ふ色の少なくなりぬ
ユキノヒノ タメノストール エラバムニ ミニソフイロノ スクナクナリヌ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.25
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (49)


01588
折れ易きチョーク粉々に踏みにじり駆け出だしたき衝動走る
オレヤスキ チョークコナゴナニ フミニジリ カケイダシタキ ショウドウハシル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.25
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (92)


01589
ガラス戸に一日動かぬ蛾の位置を確かめてわれの帰らむとする
ガラスドニ ヒトヒウゴカヌ ガノイチヲ タシカメテワレノ カエラムトスル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.25
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (20)


01590
いづくにか月ありて明るき畦の道老いし狐の如くしはぶく
イヅクニカ ツキアリテアカルキ アゼノミチ オイシキツネノ ゴトクシハブク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.26
【初出】 『形成』 1966.11 「無題」 (5)


01591
明日のため何占はむ山繭のみどり一粒手にまろがして
アスノタメ ナニウラナハム ヤママユノ ミドリイチリュウ テニマロガシテ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.26
【初出】 『形成』 1966.3 「無題」 (7)


01592
くらがりにみひらきをれば壁面の画鋲の一つ二つ見え来る
クラガリニ ミヒラキヲレバ ヘキメンノ ガビョウノヒトツ フタツミエクル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.26
【初出】 『形成』 1966.7 「無題」 (2)


01593
氷柱を兇器としたる物語読み終へて肩に来る冷え著し
ヒョウチュウヲ キョウキトシタル モノガタリ ヨミオヘテカタニ クルヒエシルシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.27
【初出】 『形成』 1966.2 「無題」 (3)


01594
まじまじと見つめられゐし記憶あり忘れてゐたき経緯のなかに
マジマジト ミツメラレヰシ キオクアリ ワスレテヰタキ ケイイノナカニ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.27
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (97)


01595
やはらかく髪をほぐして眠らむに身を脅やかす何事もなし
ヤハラカク カミヲホグシテ ネムラムニ ミヲオビヤカス ナニゴトモナシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.27
【初出】 『形成』 1966.7 「無題」 (6)