青きめしべ


01610
笹原を渡る嵐に目ざめつつ盲ひの蛇のごときさびしさ
ササハラヲ ワタルアラシニ メザメツツ メシヒノヘビノ ゴトキサビシサ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.34


01611
戸がしまる音のしてより闇のなかの青きめしべはどこまでも伸ぶ
トガシマル オトノシテヨリ ヤミノナカノ アオキメシベハ ドコマデモノブ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.34


01612
複眼となりゐし夢の須臾に醒め注射針伝ふ水滴を見つ
フクガント ナリヰシユメノ シュユニサメ チュウシャバリツタフ スイテキヲミツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.35


01613
氷盤の割れ目に落ちてましぐらに沈めるものの輝きやまず
ヒョウバンノ ワレメニオチテ マシグラニ シズメルモノノ カガヤキヤマズ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.35
【初出】 『形成』 1967.2 「無題」 (7)


01614
わが持たぬ苛虐のこころフラスコに未だ生きゐる百足を覗く
ワガモタヌ カギャクノココロ フラスコニ イマダイキヰル ムカデヲノゾク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.35
【初出】 『形成』 1967.4 「無題」 (3)


01615
霧の夜に汽笛を鳴らすこともなく柩乗せたる船の発ちゆく
キリノヨニ キテキヲナラス コトモナク ヒツギノセタル フネノタチユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.36
【初出】 『形成』 1967.2 「無題」 (3)


01616
逆巻きて危ふき海を思ふ日にジャワの更紗の布は届きぬ
サカマキテ アヤフキウミヲ オモフヒニ ジャワノサラサノ ヌノハトドキヌ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.36
【初出】 『形成』 1967.4 「無題」 (1)


01617
バザールにガラスの翼張りゐたる小さき天使も運び去られつ
バザールニ ガラスノツバサ ハリヰタル チサキテンシモ ハコビサラレツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.36
【初出】 『おおみや』 1970.1 硝子の天使 (6)