われを呼ぶこゑ


01618
あこがるる言葉とぎれておくれ毛をかきあぐる指若く美し
アコガルル コトバトギレテ オクレゲヲ カキアグルユビ ワカクウツクシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.37
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (46)


01619
送られし小さき象の縫ひぐるみ未だ名づけず長椅子に置く
オクラレシ チイサキゾウノ ヌヒグルミ イマダナヅケズ ナガイスニオク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.37
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (89)


01620
霜どけの堤のほとり新しき電柱はタールの匂ひをまとふ
シモドケノ ツツミノホトリ アタラシキ デンチュウハタールノ ニオヒヲマトフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.38
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (92)


01621
海流の変る季節と告げて来ぬ島のくらしを今は歎かず
カイリュウノ カワルキセツト ツゲテキヌ シマノクラシヲ イマハナゲカズ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.38
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (94)


01622
はこべらの萌ゆる日なたに集まりてついばむ鳥はいづこより来る
ハコベラノ モユルヒナタニ アツマリテ ツイバムトリハ イヅコヨリクル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.38
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (98)


01623
少年はさむざむとして断面の青きガラスの見本置きゆく
ショウネンハ サムザムトシテ ダンメンノ アオキガラスノ ミホンオキユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.39
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (64)


01624
あざやかに朱線を引きて消されたる文字見ゆたれの名と知り難し
アザヤカニ シュセンヲヒキテ ケサレタル モジミユタレノ ナトシリガタシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.39
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (56)


01625
幾たびの風邪を売薬にしのぎつつ恃むこころもあはくなりゆく
イクタビノ カゼヲバイヤクニ シノギツツ タノムココロモ アハクナリユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.39
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (76)


01626
あたたかき雨降り出でて浜木綿を蔽ふ蓆もとり除かれぬ
アタタカキ アメフリイデテ ハマユウヲ オオフムシロモ トリノゾカレヌ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.40
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (95)


01627
ひしひしと芽ぶきてあらむ輪郭のけぶれる森を遠景に置く
ヒシヒシト メブキテアラム リンカクノ ケブレルモリヲ エンケイニオク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.40
【初出】 『形成』 1966.3 「無題」 (1)


01628
風の夜も川の鳴る夜も胸に手をかさねて眠るならはしやさし
カゼノヨモ カワノナルヨモ ムネニテヲ カサネテネムル ナラハシヤサシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.40
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (66)


01629
旧道のほとりは莠芽ぐみたり橋渡り来る足白き犬
キュウドウノ ホトリハハグサ メグミタリ ハシワタリクル アシシロキイヌ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.41
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (97)


01630
みどり児の墓は根雪にうもれゐむ遠き河原に餅草を摘む
ミドリゴノ ハカハネユキニ ウモレヰム トオキカワラニ モチグサヲツム

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.41
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (99)


01631
鳩の影一直線に野をよぎりこだまのごとくわれを呼ぶこゑ
ハトノカゲ イッチョクセンニ ノヲヨギリ コダマノゴトク ワレヲヨブコヱ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.41
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (100)