二重星の位置


01632
幼ならは雪をよごししのみに去り「花いちもんめ」の唄わが歌ふ
オサナラハ ユキヲヨゴシシ ノミニサリ ハナイチモンメノ ウタワガウタフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.42
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (77)


01633
釈明を聞かねばならぬ寂しさに促すこゑを待ちて立ちゆく
シャクメイヲ キカネバナラヌ サビシサニ ウナガスコヱヲ マチテタチユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.42
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (73)


01634
たのしみて待つこと淡き日々ながらレースの花の白々と満つ
タノシミテ マツコトアワキ ヒビナガラ レースノハナノ シロジロトミツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.43
【初出】 『形成』 1966.11 「無題」 (3)


01635
ものの香のまつはるごとき日のゆふべ街へ出でゆく用を作りて
モノノカノ マツハルゴトキ ヒノユフベ マチヘイデユク ヨウヲツクリテ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.43
【初出】 『形成』 1966.11 「無題」 (1)


01636
たれよりも遠き一人と思ふときザイス・イコンのカメラも古りぬ
タレヨリモ トオキヒトリト オモフトキ ザイス・イコンノ カメラモフリヌ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.43
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (91)


01637
うすら寒き日のくれに来て荷を置きぬ足傾けるベンチの上に
ウスラサムキ ヒノクレニキテ ニヲオキヌ アシカタムケル ベンチノウエニ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.44
【初出】 『形成』 1969.10 「無題」 (2)


01638
人の住む気配もなくて冬枯れを映すばかりとなるガラス窓
ヒトノスム ケハイモナクテ フユガレヲ ウツスバカリト ナルガラスマド

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.44
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (61)


01639
対岸の夕日に遠く屋根光り石切る音のをりをり届く
タイガンノ ユウヒニトオク ヤネヒカリ イシキルオトノ ヲリヲリトドク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.44
【初出】 『形成』 1967.2 「無題」 (1)


01640
青木の実葉がくれに照ることを言ひとりとめのなき別れをしたり
アオキノミ ハガクレニテル コトヲイヒ トリトメノナキ ワカレヲシタリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.45
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (2)


01641
タラップに片足かけて振り向けるかの日の笑顔再びは見ず
タラップニ カタアシカケテ フリムケル カノヒノエガオ フタタビハミズ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.45
【初出】 『形成』 1966.9 「無題」 (1)


01642
唐突に電話が鳴りて眼先に人の使へるナイフ光りつ
トウトツニ デンワガナリテ マナサキニ ヒトノツカヘル ナイフヒカリツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.45
【初出】 『形成』 1967.3 「無題」 (2)


01643
をりをりに濡らし来て使ふ海綿の黒ずみてわれのよごれの如し
ヲリヲリニ ヌラシキテツカフ カイメンノ クロズミテワレノ ヨゴレノゴトシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.46
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (59)


01644
雪を見て日すがら臥りゐしといふ何しゐたらむかの日のわれは
ユキヲミテ ヒスガラコヤリ ヰシトイフ ナニシヰタラム カノヒノワレハ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.46
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (96)


01645
合歓の木の遅き芽ぶきを待つこころ二重星の位置を夜々に仰ぎて
ネムノキノ オソキメブキヲ マツココロ ミザルノイチヲ ヨヨニアオギテ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.46
【初出】 『形成』 1966.5 「無題」 (4)