石の船


01646
きりもなく羽虫湧く空ゆふづきて雲のながれの速くなりゆく
キリモナク ハムシワクソラ ユフヅキテ クモノナガレノ ハヤクナリユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.47
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (15)


01647
抜け道といふを教はりたどり来て焼け木のうかぶ掘割りに出づ
ヌケミチト イフヲオソハリ タドリキテ ヤケギノウカブ ホリワリニイヅ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.47
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (21)


01648
帰るとも行くとも見ゆる水の上落ちし油紋はただにひろがる
カエルトモ ユクトモミユル ミズノウエ オチシユモンハ タダニヒロガル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.48
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (16)


01649
こだはればきりなきものを尉面のかげる間多き雨季は近づく
コダハレバ キリナキモノヲ ジヨウメンノ カゲルマオオキ ウキハチカヅク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.48
【初出】 『形成』 1967.4 「無題」 (5)


01650
うす青きガラス散らばる道の上こまかき音を掃きよせてゆく
ウスアオキ ガラスチラバル ミチノウエ コマカキオトヲ ハキヨセテユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.48
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (2)


01651
草にうもれ消火栓あるあたりより朝々に湧く藁雀のこゑは
クサニウモレ ショウカセンアル アタリヨリ アサアサニワク アヲジノコヱハ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.49
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (3)


01652
幾たびも電話を聞きに立ちゆきて継ぎ目だらけの罫を引きゐる
イクタビモ デンワヲキキニ タチユキテ ツギメダラケノ ケイヲヒキヰル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.49
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (12)


01653
さはやかにコピイの漢字揃ふ日の人に知られぬよろこび一つ
サハヤカニ コピイノカンジ ソロフヒノ ヒトニシラレヌ ヨロコビヒトツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.49
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (51)


01654
勾玉に過ぎにし遠き時間など思ひてをれば笹の葉が鳴る
マガタマニ スギニシトオキ ジカンナド オモヒテヲレバ ササノハガナル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.50
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (72)


01655
ゆるやかに遠景をめぐるクレーン車のきらめくものをふりこぼしゆく
ユルヤカニ エンケイヲメグル クレーンシャノ キラメクモノヲ フリコボシユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.50
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (48)


01656
草を食む馬などの不意にやさしくてたんぽぽの黄のそよげるを見つ
クサヲハム ウマナドノフイニ ヤサシクテ タンポポノキノ ソヨゲルヲミツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.50
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (116)


01657
死ぬことを知らぬ揚羽が飛びゆくと言ひき再び起つ日なかりき
シヌコトヲ シラヌアゲハガ トビユクト イヒキフタタビ タツヒナカリキ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.51
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (83)


01658
灰いろの光のなかに時ながく編みゐし紐も醒めて跡なし
ハイイロノ ヒカリノナカニ トキナガク アミヰシヒモモ サメテアトナシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.51
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (69)


01659
鑿の音風の切れめによみがへり石の船など刻むならずや
ノミノオト カゼノキレメニ ヨミガヘリ イシノフネナド キザムナラズヤ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.51
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (85)