われの住む町


01809
秋の来ていち早く手を荒らす見つ赤き手套を編む内職に
アキノキテ イチハヤクテヲ アラスミツ アカキミトンヲ アムナイショクニ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.105
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (67)


01810
いくたびも地図をひろげて確かむる川にはさまれてわれの住む町
イクタビモ チズヲヒロゲテ タシカムル カワニハサマレテ ワレノスムマチ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.105
【初出】 『形成』 1969.3 「無題」 (5)


01811
庭先に棕櫚立つ家と告げしより訪ひ来ることのあるごとく待つ
ニワサキニ シュロタツイエト ツゲシヨリ トヒクルコトノ アルゴトクマツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.106
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (76)


01812
枕木に溶くるあは雪忘れゐし薬をホームの水道に飲む
マクラギニ トクルアハユキ ワスレヰシ クスリヲホームノ スイドウニノム

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.106
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (68)


01813
いつまでも冬の片虹残りゐて何に遅るるバスとも知れず
イツマデモ フユノカタニジ ノコリヰテ ナンニオクルル バストモシレズ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.106
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (69)


01814
雨あとの雫をおとす黄櫨の葉も髪に飾らむほどに色づく
アメアトノ シズクヲオトス ハジノハモ カミニカザラム ホドニイロヅク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.107
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (47)


01815
神の使者は何を着て来む風の日も言葉つつしみ人に対へり
カミノシシャハ ナニヲキテコム カゼノヒモ コトバツツシミ ヒトニムカヘリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.107
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (72)


01816
純白の大根をきざみまみどりの葉を刻み休みの日をわが遊ぶ
ジュンパクノ ダイコンヲキザミ マミドリノ ハヲキザミヤスミノ ヒヲワガアソブ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.107
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (53)


01817
落ち葉踏む音を怪しみ過ぎゆくに人ひとりゐて垣をつくろふ
オチバフム オトヲアヤシミ スギユクニ ヒトヒトリヰテ カキヲツクロフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.108
【初出】 『短歌研究』 1968.5 いづこも遠し (7)


01818
褐色の闘魚といふを飼ふ人の独りいかなるたのしみを持つ
カッショクノ トウギョトイフヲ カフヒトノ ヒトリイカナル タノシミヲモツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.108
【初出】 『短歌』 1969.8 雲多き日々 (22)


01819
印鑑の置きどころふと思ひたり橋のたもとまで人を送り来て
インカンノ オキドコロフト オモヒタリ ハシノタモトマデ ヒトヲオクリキテ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.108
【初出】 『形成』 1970.11 「無題」 (6)


01820
夜もすがら吹きゐし風の音絶えてかたつむり幾つ地上にまろぶ
ヨモスガラ フキヰシカゼノ オトタエテ カタツムリイクツ チジョウニマロブ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.109
【初出】 『形成』 1969.11 「無題」 (6)


01821
通り道の寺の祭りに市の立ち海酸漿を売る店も出づ
トオリミチノ テラノマツリニ イチノタチ ウミホウズキヲ ウルミセモイヅ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.109


01822
越して来てはじめてすごす如月の十日椿の花咲き出でぬ
コシテキテ ハジメテスゴス キサラギノ トオカツバキノ ハナサキイデヌ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.109


01823
風花のややありてまた舞ひ出づる川面はうすく夕映えのして
カザハナノ ヤヤアリテマタ マヒイヅル カワモハウスク ユウバエノシテ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.110
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (70)


01824
何の匂ひまとひ来し身か現はれし犬にいきなり膝を嗅がれつ
ナンノニオヒ マトヒコシミカ アラワレシ イヌニイキナリ ヒザヲカガレツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.110
【初出】 『短歌研究』 1970.8 花溢れゐき (56)


01825
ボタン一つ失へるのみに免れし厄もあらむとコートを吊るす
ボタンヒトツ ウシナヘルノミニ マヌガレシ ヤクモアラムト コートヲツルス

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.110
【初出】 『短歌研究』 1966.1 冬の素描 (80)