目次
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全短歌(歌集等)
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花溢れゐき
虹より遠く
夜々来鳴く
竹垣の
編み棒の
音楽を
白鳥座
身を低め
雨あとの
三面鏡を
一輪車
盲目に
夕焼けの
事務服を
閉館の
スペードの
きららかに
時刻表の
灰いろの
01843
夜々来鳴く水鶏と知りて用水に近き住まひも一年を経ぬ
ヨヨキナク クヒナトシリテ ヨウスイニ チカキスマヒモ ヒトトセヲヘヌ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.118
【初出】
『短歌』 1969.8 雲多き日々 (23)
01844
竹垣の内外となく向き向きに土に散らばる椿の花は
タケガキノ ウチソトトナク ムキムキニ ツチニチラバル ツバキノハナハ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.118
【初出】
『短歌』 1969.8 雲多き日々 (10)
01845
編み棒の先もて髪をかきあげし指のかたちが窓に映れり
アミボウノ サキモテカミヲ カキアゲシ ユビノカタチガ マドニウツレリ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.119
【初出】 『短歌研究』 1968.5 いづこも遠し (24)
01846
音楽を好む少年も戻りしか年の夜にチターをかき鳴らす音
オンガクヲ コノムショウネンモ モドリシカ トシノヨニチターヲ カキナラスオト
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.119
【初出】
『形成』 1969.2 「無題」 (7)
01847
白鳥座共に探しし遠き日よ母はすでに盲ひてゐしにあらずや
ハクチョウザ トモニサガシシ トオキヒヨ ハハハスデニメシヒテ ヰシニアラズヤ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.119
【初出】
『現代』 1969.11 青のストール (37)
01848
身を低めしのぎ得しことみづからの力となしてむつきついたち
ミヲヒクメ シノギエシコト ミヅカラノ チカラトナシテ ムツキツイタチ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.120
【初出】
『形成』 1969.3 「無題」 (1)
01849
雨あとの光のなかに湧き出でて石蕗はけうとき香を漂はす
アメアトノ ヒカリノナカニ ワキイデテ ツハハケウトキ カヲタダヨハス
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.120
【初出】
『形成』 1967.1 「無題」 (4)
01850
三面鏡をたたみて出づる朝々の怒りはつねにみづからに向く
サンメンキョウヲ タタミテイヅル アサアサノ イカリハツネニ ミヅカラニムク
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.120
【初出】
『現代』 1969.11 青のストール (86)
01851
一輪車泳がせて人の通ふ道竹馬などは見られずなりぬ
イチリンシャ オヨガセテヒトノ カヨフミチ タケウマナドハ ミラレズナリヌ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.121
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (65)
01852
盲目にころがりてゆく落ち葉かとあきらめがたき心は惑ふ
モウモクニ コロガリテユク オチバカト アキラメガタキ ココロハマドフ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.121
01853
夕焼けの空より雪の降り出でて虹よりも遠くわれをいざなふ
ユウヤケノ ソラヨリユキノ フリイデテ ニジヨリモトオク ワレヲイザナフ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.121
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (82)
01854
事務服をロッカーにしまひその奥に脱ぎたる顔の一つもしまふ
ジムフクヲ ロッカーニシマヒ ソノオクニ ヌギタルカオノ ヒトツモシマフ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.122
【初出】
『形成』 1969.3 「無題」 (4)
01855
閉館のチャイムを待ちて帰りゆく最も遠き一人となりて
ヘイカンノ チャイムヲマチテ カエリユク モットモトオキ ヒトリトナリテ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.122
【初出】 『現代短歌』 1969.11 カリフの言葉 (7)
01856
スペードの2を引きしこと生涯の非運のごとくながく忘れぬ
スペードノ ニヲヒキシコト ショウガイノ ヒウンノゴトク ナガクワスレヌ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.122
01857
きららかに車ゆきかひわが持てるライプニッツの思想も古りぬ
キララカニ クルマユキカヒ ワガモテル ライプニッツノ シソウモフリヌ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.123
01858
時刻表の文字板ともる夜半の駅今は誰も誰も逃がしてやらむ
ジコクヒョウノ モジバントモル ヨワノエキ イマハタレモタレモ ノガシテヤラム
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.123
01859
灰いろの何の花びら春を呼ぶ嵐の夜々に飛びかひやまず
ハイイロノ ナンノハナビラ ハルヲヨブ アラシノヨヨニ トビカヒヤマズ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.123
【初出】
『形成』 1969.5 「無題」 (1)