目次
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全短歌(歌集等)
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花溢れゐき
氷塊
たひらかな
ゆくりなく
病院へ
前をゆく
間をおきて
身を防ぐ
風呂敷に
使ひ方を
わが持たぬ
どんな火も
笑ひ声の
去年の蝶
失ふに
身をよぎる
いくたびも
ひとり身を
木犀の
樫の木に
逃げ切れむ
失ひし
01860
たひらかな一日を賜へわれのゆくビル見えたれか窓をあけゐる
タヒラカナ ヒトヒヲタマヘ ワレノユク ビルミエタレカ マドヲアケヰル
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.124
【初出】
『現代』 1969.11 青のストール (12)
01861
ゆくりなく日の差してをり君子蘭の花失ひて久しき鉢に
ユクリナク ヒノサシテヲリ クリビアノ ハナウシナヒテ ヒサシキハチニ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.124
【初出】
『現代』 1969.11 青のストール (14)
01862
病院へ行く時間来て幾つもの電話鳴りつぐ部屋よりのがる
ビョウインヘ ユクジカンキテ イクツモノ デンワナリツグ ヘヤヨリノガル
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.125
【初出】
『現代』 1969.11 青のストール (16)
01863
前をゆく車より洩れわが背筋をむしばむやうな裏声の唄
マエヲユク クルマヨリモレ ワガセスジヲ ムシバムヤウナ ウラゴエノウタ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.125
【初出】
『現代』 1969.11 青のストール (23)
01864
間をおきてときめき光り稲妻の音なく遠く移ろひゆけり
マヲオキテ トキメキヒカリ イナヅマノ オトナクトオク ウツロヒユケリ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.125
【初出】
『現代』 1969.11 青のストール (25)
01865
身を防ぐ偽りのみは許されよゆきかひしげき午後となりつつ
ミヲフセグ イツワリノミハ ユルサレヨ ユキカヒシゲキ ゴゴトナリツツ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.126
【初出】
『短歌新聞』 1969.8 サブリナの靴 (13)
01866
風呂敷に氷塊を包み買へる見つ母などの病む少女ならむか
フロシキニ ヒョウカイヲツツミ カヘルミツ ハハナドノヤム オトメナラムカ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.126
【初出】
『現代』 1969.11 青のストール (46)
01867
使ひ方を知らぬ秤の棚にあり何にこだはり朝より思ふ
ツカヒカタヲ シラヌハカリノ タナニアリ ナンニコダハリ アサヨリオモフ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.126
【初出】
『現代』 1969.11 青のストール (28)
01868
わが持たぬ技能の一つ区切りつつ点字読みゐる隣室のこゑ
ワガモタヌ ギノウノヒトツ クギリツツ テンジヨミヰル リンシツノコヱ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.127
【初出】
『現代』 1969.11 青のストール (27)
01869
どんな火も消されてしまふと棕櫚を打つ雨聞きながら暫らくはゐつ
ドンナヒモ ケサレテシマフト シュロヲウツ アメキキナガラ シバラクハヰツ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.127
【初出】
『現代』 1969.11 青のストール (31)
01870
笑ひ声の高きことなど母に似るわれと思ひて人と並みゆく
ワラヒゴエノ タカキコトナド ハハニニル ワレトオモヒテ ヒトトナミユク
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.127
【初出】
『現代』 1969.11 青のストール (144)
01871
去年の蝶今年の蝶と分きがたくサングラスのなかにいつまでも舞ふ
コゾノチョウ コトシノチョウト ワキガタク サングラスノナカニ イツマデモマフ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.128
【初出】
『現代』 1969.11 青のストール (137)
01872
失ふに惜しく残れる何あらむすり抜けて行く夜の人ごみを
ウシナフニ オシクノコレル ナニアラム スリヌケテユク ヨノヒトゴミヲ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.128
【初出】
『現代』 1969.11 青のストール (147)
01873
身をよぎるよろこびも今はかすかにて綿雲の浮く空思ひゐつ
ミヲヨギル ヨロコビモイマハ カスカニテ ワタグモノウク ソラオモヒヰツ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.128
【初出】
『現代』 1969.11 青のストール (147)
01874
いくたびも沈みては浮く夢のなか沈みきりたくなりて沈みき
イクタビモ シズミテハウク ユメノナカ シズミキリタク ナリテシズミキ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.129
【初出】
『現代』 1969.11 青のストール (120)
01875
ひとり身を照らし出されぬヘッドライトの穂先が棒の如く伸び来て
ヒトリミヲ テラシダサレヌ ヘッドライトノ ホサキガボウノ ゴトクノビキテ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.129
【初出】
『現代』 1969.11 青のストール (94)
01876
木犀の根づきしさまを見届けて安らぎのふと失意に似たる
モクセイノ ネヅキシサマヲ ミトドケテ ヤスラギノフト シツイニニタル
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.129
【初出】
『現代』 1969.11 青のストール (52)
01877
樫の木に触れて別れし日を遠く逝けることさへ知らず過ぎにき
カシノキニ フレテワカレシ ヒヲトオク ユケルコトサヘ シラズスギニキ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.130
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (16)
01878
逃げ切れむわれと思はず逃げてゆく心のさまもまざと夢見つ
ニゲキレム ワレトオモハズ ニゲテユク ココロノサマモ マザトユメミツ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.130
【初出】 『短歌研究』 1967.3 石の船 (36)
01879
失ひし視力の不意に戻り来て織女の星など見ゆる夜無きか
ウシナヒシ シリョクノフイニ モドリキテ ベガノホシナド ミユルヨナキカ
『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.130
【初出】 『現代短歌』 1969.11 カリフの言葉 (13)