サブリナの靴


01900
手袋に十指収めて帰らむにチュールに透けて光るマニキュア
テブロクニ ジッシオサメテ カエラムニ チュールニスケテ ヒカルマニキュア

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.138
【初出】 『短歌新聞』 1969.8 サブリナの靴 (1)


01901
道幅を覆ひてビルの影深し全きわれの歩むにあらず
ミチハバヲ オオヒテビルノ カゲフカシ マッタキワレノ アユムニアラズ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.138
【初出】 『短歌新聞』 1969.8 サブリナの靴 (2)


01902
花火の如きアガパンサスも過ぎむとしおもたき雨の日もすがら降る
ハナビノゴトキ アガパンサスモ スギムトシ オモタキアメノ ヒモスガラフル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.139
【初出】 『短歌新聞』 1969.8 サブリナの靴 (3)


01903
つぶやきのふとよみがへりピタゴラスの定理といふを今に記憶す
ツブヤキノ フトヨミガヘリ ピタゴラスノ テイリトイフヲ イマニキオクス

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.139
【初出】 『短歌新聞』 1969.8 サブリナの靴 (4)


01904
老い著きインコに日ごと摘むはこべ白く小さき花持ち始む
オイシルキ インコニヒゴト ツムハコベ シロクチイサキ ハナモチハジム

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.139
【初出】 『形成』 1969.9 「無題」 (2)


01905
焼き場などあると聞かねど野の果てを吹きちぎられて煙飛ぶ見ゆ
ヤキバナド アルトキカネド ノノハテヲ フキチギラレテ ケムリトブミユ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.140
【初出】 『短歌新聞』 1969.8 サブリナの靴 (7)


01906
何事かありて駆けゆく犬に会ひ道はふたたびひるがほの坂
ナニゴトカ アリテカケユク イヌニアヒ ミチハフタタビ ヒルガホノサカ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.140
【初出】 『短歌新聞』 1969.8 サブリナの靴 (6)


01907
目薬をさしてしばらく眼閉づまぼろしばかり見つつ過ぎむか
メグスリヲ サシテシバラク マナコトヅ マボロシバカリ ミツツスギムカ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.140
【初出】 『短歌新聞』 1969.8 サブリナの靴 (8)


01908
インク壺にインク足し来て坐りたり立ちゐたる間に何か乱るる
インクツボニ インクタシキテ スワリタリ タチヰタルマニ ナニカミダルル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.141
【初出】 『形成』 1971.6 「無題」 (4)


01909
香りよき石鹼に揉むハンカチの黄の薔薇なすをてのひらに乗す
カオリヨキ セッケンニモム ハンカチノ キノバラナスヲ テノヒラニノス

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.141
【初出】 『形成』 1971.1 「無題」 (2)


01910
尾を閉ぢて眠れる見ればキルケの杖に変へられしわが犬かも知れず
オヲトヂテ ネムレルミレバ キルケノツエニ カヘラレシワガ イヌカモシレズ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.141
【初出】 『現代短歌』 1969.11 カリフの言葉 (12)


01911
サブリナの靴履くこともなく置きてをりをりさびし妹の歌
サブリナノ クツハクコトモ ナクオキテ ヲリヲリサビシ イモウトノウタ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.142
【初出】 『短歌新聞』 1969.8 サブリナの靴 (9)


01912
杭抜きし跡のくぼみのくれぐれに光りつつ水のたまれるも知る
クイヌキシ アトノクボミノ クレグレニ ヒカリツツミズノ タマレルモシル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.142
【初出】 『短歌新聞』 1969.8 サブリナの靴 (11)


01913
珈琲も断ちて癒えゆく日を待つに不意のごとくに咲く合歓の花
コーヒーモ タチテイエユク ヒヲマツニ フイノゴトクニ サクネムノハナ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.142
【初出】 『短歌新聞』 1969.8 サブリナの靴 (15)