雲多き日々


01914
咲き残るひなげしの白地のひびき空のひびきにさとき花びら
サキノコル ヒナゲシノシロ チノヒビキ ソラノヒビキニ サトキハナビラ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.143
【初出】 『短歌』 1969.8 雲多き日々 (1)


01915
もの縫ひて二階にあればさまざまの地上の音のわれに集まる
モノヌヒテ ニカイニアレバ サマザマノ チジョウノオトノ ワレニアツマル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.143
【初出】 『短歌』 1969.8 雲多き日々 (2)


01916
みづからの手では滅ぶなといふ言葉思ひ出づるはいかなる時か
ミヅカラノ テデハホロブナ トイフコトバ オモヒイヅルハ イカナルトキカ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.144
【初出】 『短歌』 1969.8 雲多き日々 (3)


01917
昼のサイレン聞こえてゐしが野を遠く積み木のごとき貨車流れゆく
ヒルノサイレン キコエテヰシガ ノヲトオク ツミキノゴトキ カシャナガレユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.144
【初出】 『短歌』 1969.8 雲多き日々 (4)


01918
少年の義足のあとを歩みつつ曲り角までしばらく間あり
ショウネンノ ギソクノアトヲ アユミツツ マガリカドマデ シバラクマアリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.144
【初出】 『短歌』 1969.8 雲多き日々 (5)


01919
思ひ来しことの途切れて黒んぼのマヌカンが立つ店先を過ぐ
オモヒコシ コトノトギレテ クロンボノ マヌカンガタツ ミセサキヲスグ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.145
【初出】 『短歌』 1969.8 雲多き日々 (7)


01920
もとのわれに戻りて歩む夜の道吹かれゐるものみな音を立つ
モトノワレニ モドリテアユム ヨルノミチ フカレヰルモノ ミナオトヲタツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.145
【初出】 『短歌』 1969.8 雲多き日々 (13)


01921
帰り来てもの言ふとせぬわれを措き光るまでタイルを磨く妹
カエリキテ モノイフトセヌ ワレヲオキ ヒカルマデタイルヲ ミガクイモウト

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.145
【初出】 『短歌』 1969.8 雲多き日々 (14)


01922
泥のごとき雲ばかり見てゐし夢の醒めつつ風の音がひろがる
ドロノゴトキ クモバカリミテ ヰシユメノ サメツツカゼノ オトガヒロガル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.146
【初出】 『短歌』 1969.8 雲多き日々 (17)


01923
青柿を拾へば土の冷え持てり何に朝より苦しきわれか
アオガキヲ ヒロヘバツチノ ヒエモテリ ナンニアサヨリ クルシキワレカ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.146
【初出】 『短歌』 1969.8 雲多き日々 (18)


01924
駆けこみて来し人の息しづまらぬままトンネルに入りゆく電車
カケコミテ コシヒトノイキ シヅマラヌ ママトンネルニ イリユクデンシャ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.146
【初出】 『短歌』 1969.8 雲多き日々 (20)


01925
ややありて筆談に移るさま見つつ人を待つ間の次第に長し
ヤヤアリテ ヒツダンニウツル サマミツツ ヒトヲマツマノ シダイニナガシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.147
【初出】 『短歌』 1969.8 雲多き日々 (24)


01926
稀薄なる思ひにゐしが黒き傘不意にすぼめて人の入り来る
キハクナル オモヒニヰシガ クロキカサ フイニスボメテ ヒトノイリクル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.147
【初出】 『短歌』 1969.8 雲多き日々 (25)


01927
雲多き日々となりつつ黄の花粉こぼして終るマーガレットも
クモオオキ ヒビトナリツツ キノカフン コボシテオワル マーガレットモ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.147
【初出】 『短歌』 1969.8 雲多き日々 (27)


01928
橋の上を風過ぎむとし青鳩の逃ぐる構へを見せてとどまる
ハシノウエヲ カゼスギムトシ アオバトノ ニグルカマヘヲ ミセテトドマル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.148
【初出】 『短歌』 1969.8 雲多き日々 (26)


01929
曇り日にかぎろひわたる丘の上白き穂わたのひとところ舞ふ
クモリビニ カギロヒワタル オカノウエ シロキホワタノ ヒトトコロマフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.148
【初出】 『短歌』 1969.8 雲多き日々 (8)


01930
ふり向けばいつの間に来て草むらに音もなくゐるシャガールの牛
フリムケバ イツノマニキテ クサムラニ オトモナクヰル シャガールノウシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.148
【初出】 『短歌』 1969.8 雲多き日々 (9)