光の縄


01977
モールもて作れる駱駝棚に置きとりとめもなくさすらひゆけり
モールモテ ツクレルラクダ タナニオキ トリトメモナク サスラヒユケリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.166
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (34)


01978
培ふはただ病ひのみと人の言ふ運命論はみづからも持つ
ツチカフハ タダヤマヒノミト ヒトノイフ ウンメイロンハ ミヅカラモモツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.166
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (35)


01979
茅の穂の風に騒ぎてどの道を抜けても寒き夕ぐれの坂
カヤノホノ カゼニサワギテ ドノミチヲ ヌケテモサムキ ユウグレノサカ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.167
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (62)


01980
灯を消してしばらくののち白みくるガラス窓あり夜々のならひに
ヒヲケシテ シバラクノノチ シラミクル ガラスマドアリ ヨヨノナラヒニ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.167
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (15)


01981
ひとすぢの光の縄のわれを巻きまたゆるやかに戻りてゆけり
ヒトスヂノ ヒカリノナワノ ワレヲマキ マタユルヤカニ モドリテユケリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.167
【初出】 『短歌』 1969.8 雲多き日々 (11)


01982
のがれ得ぬ雪崩なりしや再びの忌の夜にひびく木枯らしのこゑ
ノガレエヌ ナダレナリシヤ フタタビノ キノヨノニヒビク コガラシノコヱ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.168
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (91)


01983
ルーレットとまれる谷によみがへる何あらむ目を閉ぢて待ちつつ
ルーレット トマレルタニニ ヨミガヘル ナニアラムメヲ トヂテマチツツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.168
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (68)


01984
いつまでもとろ火に何を煮てゐけむをりをりさびし母の憶い出
イツマデモ トロビニナニヲ ニテヰケム ヲリヲリサビシ ハハノオモイデ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.168
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (77)


01985
細き管のぼる液体の加速度を意識にたどるごとく眠りぬ
ホソキクダ ノボルエキタイノ カソクドヲ イシキニタドル ゴトクネムリヌ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.169


01986
金柑のやさしき重み手にのせて一粒づつの核を抜きゆく
キンカンノ ヤサシキオモミ テニノセテ ヒトツブヅツノ タネヲヌキユク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.169
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (78)


01987
一羽のみとなりしインコもめざめつつママレード煮る香の部屋に満つ
イチワノミト ナリシインコモ メザメツツ ママレードニル カノヘヤニミツ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.169
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (73)


01988
ミシン踏めばミシンの音にまぎれゆき憎まるるほどのこともなし得ぬ
ミシンフメバ ミシンノオトニ マギレユキ ニクマルルホドノ コトモナシエヌ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.170
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (105)


01989
雪渓のいづこも寒しなきがらを残さざる死を遂げむと言ひき
セッケイノ イヅコモサムシ ナキガラヲ ノコサザルシヲ トゲムトイヒキ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.170
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (143)


01990
音もなく木々に降る雪かの冬より還らぬ人の花かも知れず
オトモナク キギニフルユキ カノフユヨリ カエラヌヒトノ ハナカモシレズ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.170
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (100)