山の地図


01991
青白く燃えたつ花と人の歌ひたる八つ手ひとむら夜の庭に置く
アオジロク モエタツハナトヒトノ ウタヒタル ヤツデヒトムラ ヨノニワニオク

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.171


01992
まどろみの隙間をみたす水ありてただよひゆけりわれのてのひら
マドロミノ スキマヲミタス ミズアリテ タダヨヒユケリ ワレノテノヒラ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.171
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (109)


01993
落ちのびてどこまでか行き堪へがたく寒しと人に言ひて目ざめぬ
オチノビテ ドコマデカユキ タヘガタク サムシトヒトニ イヒテメザメヌ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.172


01994
どの山の地図ひらきても静脈の色つばらかに川流れたり
ドノヤマノ チズヒラキテモ ジョウミャクノ イロツバラカニ カワナガレタリ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.172
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (41)


01995
撃たれしは土民の少女羽根あまた髪に飾れるよそほひのまま
ウタレシハ ドミンノオトメ ハネアマタ カミニカザレル ヨソホヒノママ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.172
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (65)


01996
火の海となれる油田を思ふまで秩父嶺かけて夕映えは燃ゆ
ヒノウミト ナレルユデンヲ オモフマデ チチブネカケテ ユウバエハモユ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.173


01997
何の箱も柩のかたちに見ゆる日の街を歩めり指先冷えて
ドノハコモ ヒツギノカタチニ ミユルヒノ マチヲアユメリ ユビサキヒエテ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.173


01998
かかはりのなきことながら夕まけて地下ガレーヂのあたり騒がし
カカハリノ ナキコトナガラ ユウマケテ チカガレーヂノ アタリサワガシ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.173
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (30)


01999
心なく人の傷みに触れゆきし言葉の機微を帰り来て思ふ
ココロナク ヒトノイタミニ フレユキシ コトバノキビヲ カエリキテオモフ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.174
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (4)


02000
魚のやうになめらなる手と透かしつつ武器のごときを持ちしことなき
ウオノヤウニ ナメラナルテト スカシツツ ブキノゴトキヲ モチシコトナキ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.174
【初出】 『現代短歌』 1969.11 カリフの言葉 (5)


02001
地に撥ねし木の実の音もしづまりて還らぬわれを待つばかりなる
チニハネシ コノミノオトモ シヅマリテ カエラヌワレヲ マツバカリナル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.174
【初出】 『現代短歌』 1969.11 カリフの言葉 (20)


02002
きれぎれに洩れくる会話つなぎゐて願ひのうすきわれかも知れず
キレギレニ モレクルカイワ ツナギヰテ ネガヒノウスキ ワレカモシレズ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.175
【初出】 『現代短歌』 1969.11 カリフの言葉 (15)


02003
仰向けに運ばれむとしなきがらの胸に覗けるハンカチの白
アオムケニ ハコバレムトシ ナキガラノ ムネニノゾケル ハンカチノシロ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.175
【初出】 『現代短歌』 1969.11 カリフの言葉 (14)


02004
めざめたる闇にラヂオの声のふと死後の会話のごとく聞こゆる
メザメタル ヤミニラヂオノ コエノフト シゴノカイワノ ゴトクキコユル

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.175
【初出】 『短歌研究』 1969.3 ひなげしの種 (17)


02005
夜の雨に小さき苗は立ち直りマーガレットの葉のかたち見す
ヨノアメニ チイサキナエハ タチナオリ マーガレットノ ハノカタチミス

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.176
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (126)


02006
竹を割く音の次第に澄みて来ぬ野鳩のむれの飛びたちしあと
タケヲサク オトノシダイニ スミテキヌ ノバトノムレノ トビタチシアト

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.176
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (127)


02007
喪のリボンはづしつつ思ふ生きの日になしがたかりし和解を遂げぬ
モノリボン ハヅシツツオモフ イキノヒニ ナシガタカリシ ワカイヲトゲヌ

『花溢れゐき』(短歌研究社 1971) p.176
【初出】 『現代』 1969.11 青のストール (134)