目次
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全短歌(歌集等)
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雲の地図
雲の地図
襟あしの
うづくまる
地に低く
蝉殻に
気づかれぬ
硝子戸に
家にゐて
口径の
遠き雲の
ひび入りの
犬と歩み
噴水に
よりどなく
剝製の
忘れたる
02213
襟あしの荒れたる感じ身に残る楡のこずゑの風凪ぐときに
エリアシノ アレタルカンジ ミニノコル ニレノコズヱノ カゼナグトキニ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.24
【初出】
『短歌研究』 1972.3 雲の地図 (1)
02214
うづくまるいづこもわれの流刑地草抜けば草の臭ひがのぼる
ウヅクマル イヅコモワレノ リュウケイチ クサヌケバクサノ ニオヒガノボル
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.24
【初出】
『短歌研究』 1972.3 雲の地図 (2)
02215
地に低く視線向く日とさびしみて枇杷の花散るところを過ぎぬ
チニヒクク シセンムクヒト サビシミテ ビワノハナチル トコロヲスギヌ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.25
【初出】
『短歌研究』 1972.3 雲の地図 (3)
02216
蝉殻に残る筈なき生きもののほてりを呼びててのひらに乗す
セミガラニ ノコルハズナキ イキモノノ ホテリヲヨビテ テノヒラニノス
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.25
【初出】
『短歌研究』 1972.3 雲の地図 (4)
02217
気づかれぬやうに通りぬさわだちて人々の寄る橋のかたはら
キヅカレヌ ヤウニトオリヌ サワダチテ ヒトビトノヨル ハシノカタハラ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.25
【初出】
『短歌研究』 1972.3 雲の地図 (5)
02218
硝子戸にまばらにあたる雨の音死にたる魚は鱗しづけし
ガラスドニ マバラニアタル アメノオト シニタルウオハ ウロコシヅケシ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.26
【初出】
『短歌研究』 1972.3 雲の地図 (6)
02219
家にゐて職場にありてわが思ひ不意に短く喘ぐことあり
イエニヰテ ショクバニアリテ ワガオモヒ フイニミジカク アエグコトアリ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.26
【初出】
『短歌研究』 1972.3 雲の地図 (7)
02220
口径のかすかに一つ一つ違ふワインのグラス伏せてゆくとき
コウケイノ カスカニヒトツ ヒトツチガフ ワインノグラス フセテユクトキ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.26
【初出】 『短歌研究』 1972.3 雲の地図 (8)
02221
遠き雲の地図を探さむこの町をのがれむといふ妹のため
トオキクモノ チズヲサガサム コノマチヲ ノガレムトイフ イモウトノタメ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.27
【初出】
『短歌研究』 1972.3 雲の地図 (9)
02222
ひび入りの卵割りたる音の下思はぬ明るさに黄味の飛び出づ
ヒビイリノ タマゴワリタル オトノシタ オモハヌアカルサニ キミノトビイヅ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.27
【初出】
『短歌研究』 1972.3 雲の地図 (10)
02223
犬と歩みくまぐまを知れる川原に今朝はまだらに雪の積もれる
イヌトアユミ クマグマヲシレル カハハラニ ケサハマダラニ ユキノツモレル
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.27
【初出】 『短歌研究』 1972.3 雲の地図 (11)
02224
噴水に遠くはなれし池のはた動かぬ水は雲を映せり
フンスイニ トオクハナレシ イケノハタ ウゴカヌミズハ クモヲウツセリ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.28
【初出】
『短歌研究』 1972.3 雲の地図 (12)
02225
よりどなく風に揉まれゐし糸杉の大き影なす陽の入りぎはに
ヨリドナク カゼニモマレヰシ イトスギノ オオキカゲナス ヒノイリギハニ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.28
【初出】
『短歌研究』 1972.3 雲の地図 (13)
02226
剝製のやうに目ばかり光らせて夜をゐるわれは何のけものか
ハクセイノ ヤウニメバカリ ヒカラセテ ヨヲヰルワレハ ナンノケモノカ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.28
【初出】
『短歌研究』 1972.3 雲の地図 (14)
02227
忘れたるころに一つづつ咲く薔薇を思ひやさしくなりて眠りつ
ワスレタル コロニヒトツヅツ サクバラヲ オモヒヤサシク ナリテネムリツ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.29
【初出】
『短歌研究』 1972.3 雲の地図 (15)