目次
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全短歌(歌集等)
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雲の地図
操られゐる
あたたかき
朝夕の
アーケードに
人もわれも
窓をあけて
ひとり歩む
改札を
電車待つ
とげ抜きの
励まして
夢のなかの
吊り皮に
夢見ぬと
たれも同じ
夜泣きする
いづれ癒ると
ホームより
いつのまに
風の幅
きれぎれに
動かずに
ひなげしの
02305
あたたかき雨となりたりふるさとの桑の若葉もほぐれむころか
アタタカキ アメトナリタリ フルサトノ クワノワカバモ ホグレムコロカ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.59
【初出】
『形成』 1972.5 操られゐる (1)
02306
朝夕の電車に過ぎてひとたびも降りしことなき駅幾つあり
アサユウノ デンシャニスギテ ヒトタビモ オリシコトナキ エキイクツアリ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.59
【初出】
『形成』 1972.5 操られゐる (2)
02307
アーケードに雨降る街のいづこにかイースト菌の匂ひしてゐつ
アーケードニ アメフルマチノ イヅコニカ イーストキンノ ニオヒシテヰツ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.60
【初出】
『形成』 1972.5 操られゐる (3)
02308
人もわれもリモートコントロールにて操られゐる如き事務室
ヒトモワレモ リモートコント ロールニテ アヤツラレヰル ゴトキジムシツ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.60
【初出】
『形成』 1972.5 操られゐる (4)
02309
窓をあけて放ちやらむか文鳥も熱ばむ今日のわが手には来ず
マドアケテ ハナチヤラムカ ブンチョウモ ネツバムキヨウノ ワガテニハコズ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.60
【初出】
『形成』 1972.5 操られゐる (6)
02310
ひとり歩むことは少なしこの朝も先の路地よりたれか出で来る
ヒトリアユム コトハスクナシ コノアサモ サキノロジヨリ タレカイデクル
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.61
【初出】
『形成』 1972.5 操られゐる (7)
02311
改札を出づればしまふ定期券約束ごとなどのうとましき日よ
カイサツヲ イヅレバシマフ テイキケン ヤクソクゴトナドノ ウトマシキヒヨ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.61
【初出】
『形成』 1972.5 操られゐる (8)
02312
電車待つあひだしばらく話しゐて表裏ある声を持ちあふ
デンシャマツ アヒダシバラク ハナシヰテ オモテウラアル コエヲモチアフ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.61
【初出】
『形成』 1972.5 操られゐる (9)
02313
とげ抜きの小さきをつねに持ちてゐてみづから使ふ事は少なし
トゲヌキノ チイサキヲツネニ モチテヰテ ミヅカラツカフ コトハスクナシ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.62
【初出】
『形成』 1972.5 操られゐる (10)
02314
励ましてあと幾年を勤め得むはがゆきことの多くなりつつ
ハゲマシテ アトイクトセヲ ツトメエム ハガユキコトノ オオクナリツツ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.62
【初出】
『形成』 1972.5 操られゐる (11)
02315
夢のなかの景色のやうに寒けくてどの窓も白き曇りを映す
ユメノナカノ ケシキノヤウニ サムケクテ ドノマドモシロキ クモリヲウツス
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.62
【初出】
『形成』 1972.5 操られゐる (12)
02316
吊り皮に縋りつづけて帰り来ぬ指かじかめる手袋を置く
ツリカワニ スガリツヅケテ カエリキヌ ユビカジカメル テブクロヲオク
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.63
【初出】
『形成』 1972.5 操られゐる (13)
02317
夢見ぬといふ夜は無くて眠りつつ会ひたき人を見るにもあらず
ユメミヌト イフヨハナクテ ネムリツツ アヒタキヒトヲ ミルニモアラズ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.63
【初出】
『形成』 1972.5 操られゐる (15)
02318
たれも同じ不安を持ちて働くと階段を書庫へくだるとき思ふ
タレモオナジ フアンヲモチテ ハタラクト カイダンヲショコヘ クダルトキオモフ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.63
【初出】
『形成』 1972.5 操られゐる (16)
02319
夜泣きする幼な子のゐる両隣ひとり起きゐる宵々に知る
ヨナキスル オサナゴノヰル リョウドナリ ヒトリオキヰル ヨイヨイニシル
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.64
【初出】
『形成』 1972.5 操られゐる (17)
02320
いづれ癒ると思ひてをれど風邪のあと味覚失ひ五日ほどたつ
イヅレナホルト オモヒテヲレド カゼノアト ミカクウシナヒ イツカホドタツ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.64
【初出】
『形成』 1972.5 操られゐる (18)
02321
ホームよりはみ出してとまる貨車が見ゆまがれば駅の上の岨道
ホームヨリ ハミダシテトマル カシャガミユ マガレバエキノ ウエノソバミチ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.64
【初出】
『形成』 1972.5 操られゐる (19)
02322
いつのまにあがれる雨かエクレアも冷たしとのみ思ひ食みゐつ
イツノマニ アガレルアメカ エクレアモ ツメタシトノミ オモヒハミヰツ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.65
【初出】
『形成』 1972.5 操られゐる (20)
02323
風の幅ひろがりゆきて水の上見ゆる限りの波光りたり
カゼノハバ ヒロガリユキテ ミズノウヘ ミユルカギリノ ナミヒカリタリ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.65
【初出】
『形成』 1972.5 操られゐる (21)
02324
きれぎれにゆるく流るるうす雲のかさなるときに高さが違ふ
キレギレニ ユルクナガルル ウスグモノ カサナルトキニ タカサガタガフ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.65
【初出】
『形成』 1972.5 操られゐる (22)
02325
動かずにをれば膝よりひび割るる作りそこねし土偶のやうに
ウゴカズニ ヲレバヒザヨリ ヒビワルル ツクリソコネシ ドグウノヤウニ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.66
【初出】
『形成』 1972.5 操られゐる (24)
02326
ひなげしの花もいつしか立ち直り影ごとゆらぐガラスの外に
ヒナゲシノ ハナモイツシカ タチナオリ カゲゴトユラグ ガラスノソトニ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.66
【初出】
『形成』 1972.5 操られゐる (25)