力湧き来よ


02400
遠くより青く点してバスは来る帰りゆきてもたれもをらぬに
トオクヨリ アオクトモシテ バスハクル カエリユキテモ タレモヲラヌニ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.92
【初出】 『形成』 1972.11 「無題」 (1)


02401
雲を映す日の多くなれる水の上風はすぎゆくバリウム色に
クモヲウツス ヒノオオクナレル ミズノウエ カゼハスギユク バリウムイロニ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.92


02402
幾年を枯れがれにゐてはなむけのやうにこの春咲きし丹つつじ
イクトセヲ カレガレニヰテ ハナムケノ ヤウニコノハル サキシニツツジ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.93
【初出】 『形成』 1972.8 「無題」 (1)


02403
雨の音に取り巻かれゐてのがれ得ずはげしくたれかわが名を呼べよ
アメノオトニ トリマカレヰテ ノガレエズ ハゲシクタレカ ワガナヲヨベヨ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.93
【初出】 『形成』 1972.11 「無題」 (3)


02404
眠るとき必ず思ふわれの位置運河ふたすぢこもごもに照る
ネムルトキ カナラズオモフ ワレノイチ ウンガフタスヂ コモゴモニテル

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.93
【初出】 『形成』 1972.11 「無題」 (6)


02405
灰いろの葡萄つるくさきりもなくつなぎてゆけり眠りのなかに
ハイイロノ ブドウツルクサ キリモナク ツナギテユケリ ネムリノナカニ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.94
【初出】 『形成』 1972.11 「無題」 (7)


02406
門灯の一ついつより消えゐるかさだかにはたれも覚えてをらず
モントウノ ヒトツイツヨリ キエヰルカ サダカニハタレモ オボエテヲラズ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.94
【初出】 『形成』 1972.8 「無題」 (4)


02407
疑はれてゐるかも知れずグラスのなかの氷片一つ不意に覆る
ウタガハレテ ヰルカモシレズ グラスノナカノ ヒョウヘンヒトツ フイニクツガヘル

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.94


02408
髪長きマネキン人形横抱きに運び去らるる一つまた一つ
カミナガキ マネキンニンギョウ ヨコダキニ ハコビサラルル ヒトツマタヒトツ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.95


02409
聞きとれぬ遠きドラマに繩のやうな顎ひげのある仮面がうごく
キキトレヌ トオキドラマニ ナワノヤウナ アゴヒゲノアル カメンガウゴク

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.95
【初出】 『形成』 1972.10 「無題」 (5)


02410
これ以上失ふものは残りゐず腕力のごとき力湧き来よ
コレイジョウ ウシナフモノハ ノコリヰズ ワンリョクノゴトキ チカラワキコヨ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.95
【初出】 『形成』 1972.10 「無題」 (4)