幾月かたつ


02411
携ひて在りにし日まで幾億光年の昔まで遠く引き戻されよ
タヅサヒテ アリニシヒマデ イクオクコウネンノ ムカシマデトオク ヒキモドサレヨ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.96
【初出】 『短歌』 1973.1 幾月かたつ (1)


02412
痣として顔に残ると思ふまであかずなげきて幾月かたつ
アザトシテ カオニノコルト オモフマデ アカズナゲキテ イクツキカタツ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.96
【初出】 『短歌』 1973.1 幾月かたつ (2)


02413
われの死を見ずにすみたる妹とくり返し思ひなぐさまむとす
ワレノシヲ ミズニスミタル イモウトト クリカエシオモヒ ナグサマムトス

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.97
【初出】 『短歌』 1973.1 幾月かたつ (3)


02414
口が裂けても言へぬことあり思ひゐて髪のなかから汗ばみてきぬ
クチガサケテモ イヘヌコトアリ オモヒヰテ カミノナカカラ アセバミテキヌ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.97
【初出】 『短歌』 1973.1 幾月かたつ (4)


02415
接ぎ穂なき思ひにをればゆるやかに輪を描きてあがる跳ね橋が見ゆ
ツギホナキ オモヒニヲレバ ユルヤカニ ワヲカキテアガル ハネバシガミユ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.97
【初出】 『短歌』 1973.1 幾月かたつ (6)


02416
ひとすぢの曲線となる目の前にはげしくぶれてゐたるコードは
ヒトスヂノ キョクセントナル メノマエニ ハゲシクブレテ ヰタルコードハ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.98
【初出】 『短歌』 1973.1 幾月かたつ (7)


02417
夜のわれをかこむ死者たち声たてず本のうしろのやうな背中よ
ヨノワレヲ カコムシシャタチ コエタテズ ホンノウシロノ ヤウナセナカヨ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.98
【初出】 『短歌』 1973.1 幾月かたつ (8)


02418
泡だてて手を洗ふなり椅子の無い夢ばかり見て眠らむ夜も
アワダテテ テヲアラフナリ イスノナイ ユメバカリミテ ネムラムヨルモ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.98
【初出】 『短歌』 1973.1 幾月かたつ (9)


02419
てのひらに何もなければきれぎれの運命線を見るほかあらず
テノヒラニ ナニモナケレバ キレギレノ ウンメイセンヲ ミルホカアラズ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.99
【初出】 『短歌研究』 1973.3 われより何を (1)


02420
三面鏡に朝々映しかさねつつ雪花石膏の女面も古りぬ
サンメンキョウニ アサアサウツシ カサネツツ アラバスターノ オンナメンモフリヌ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.99
【初出】 『短歌研究』 1973.3 われより何を (2)


02421
倒さるるまでは立ちゐて森の木々いづれまばらに枯れ葉をまとふ
タオサルル マデハタチヰテ モリノキギ イヅレマバラニ カレハヲマトフ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.100
【初出】 『短歌研究』 1973.3 われより何を (3)


02422
急速に寒くなり来しふくらはぎわれはわが持つ虚飾に堪へず
キュウソクニ サムクナリコシ フクラハギ ワレハワガモツ キョショクニタヘズ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.100
【初出】 『短歌研究』 1973.3 われより何を (4)


02423
あてのなき約束させて帰りゆくわれより何を奪りたき人か
アテノナキ ヤクソクサセテ カエリユク ワレヨリナニヲ トリタキヒトカ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.100
【初出】 『短歌研究』 1973.3 われより何を (5)


02424
亡き人のショールをかけて街行くにかなしみはふと背にやはらかし
ナキヒトノ ショールヲカケテ マチユクニ カナシミハフト セニヤハラカシ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.101
【初出】 『短歌研究』 1973.3 われより何を (7)


02425
履きて見て靴を買はむによろめきしわれを支ふる妹はゐず
ハキテミテ クツヲカハムニ ヨロメキシ ワレヲササフル イモウトハヰズ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.101
【初出】 『短歌研究』 1973.3 われより何を (8)


02426
もう消えぬ濁りのやうにいつまでも視野より去らぬひとひらの雲
モウキエヌ ニゴリノヤウニ イツマデモ シヤヨリサラヌ ヒトヒラノクモ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.101
【初出】 『短歌研究』 1973.3 われより何を (9)


02427
忘るるといふにはあらね意識して焦点を移すことに慣れゆく
ワスルルト イフニハアラネ イシキシテ ショウテンヲウツス コトニナレユク

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.102
【初出】 『短歌研究』 1973.3 われより何を (10)


02428
わざはひを閉ぢ込めし思ひ走りたり塩を振り足し蓋なすときに
ワザハヒヲ トヂコメシオモヒ ハシリタリ シオヲフリタシ フタナストキニ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.102
【初出】 『短歌研究』 1973.3 われより何を (12)


02429
サボテンのある二つ目のテーブルへ必ず坐る呪ひめきて
サボテンノ アルフタツメノ テーブルヘ カナラズスワル マジナヒメキテ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.102
【初出】 『短歌研究』 1973.3 われより何を (14)


02430
つづけざまにフラッシュ焚かれ遠くにてタイプ打つ指の力削がれつ
ツヅケザマニ フラッシュタカレ トオクニテ タイプウツユビノ チカラソガレツ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.103
【初出】 『短歌研究』 1973.3 われより何を (16)


02431
水平に拡大鏡移しつつ読みてゐてかたち美しYといふ文字
スイヘイニ ルーペウツシツツ ヨミテヰテ カタチウツクシ ワイトイフモジ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.103
【初出】 『短歌研究』 1973.3 われより何を (17)


02432
まぎれゆかむまぎれてあらむとみづからに言ひて磨る墨いたくかぐはし
マギレユカム マギレテアラムト ミヅカラニ イヒテスルスミ イタクカグハシ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.103
【初出】 『短歌研究』 1973.3 われより何を (18)