白桃季


02576
栗の花の匂へば雨になるといふ雨の日曜はさびしきものを
クリノハナノ ニオヘバアメニ ナルトイフ アメノニチヨウハ サビシキモノヲ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.154
【初出】 『形成』 1973.8 「無題」 (1)


02577
黄の花の終らむとしてとりとめもあらず乱るる薔薇の垣根は
キノハナノ オワラムトシテ トリトメモ アラズミダルル バラノカキネハ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.154
【初出】 『形成』 1973.8 「無題」 (7)


02578
風邪のあとの幾日たゆく勤めゐて本の倒るる音にも脅ゆ
カゼノアトノ イクニチタユク ツトメヰテ ホンノタオルル オトニモオビユ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.155
【初出】 『形成』 1973.12 「無題」 (4)


02579
白樺に似る林とぞ少女らの調べ当てし木の名「ナンキンハゼノキ」
シラカバニ ニルハヤシトゾ オトメラノ シラベアテシキノナ ナンキンハゼノキ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.155
【初出】 『形成』 1973.12 「無題」 (5)


02580
散りしける売子木の花みなよごれゐておもたし傘も左手の荷も
チリシケル エゴノハナミナ ヨゴレヰテ オモタシカサモ ヒダリテノニモ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.155
【初出】 『形成』 1973.8 「無題」 (4)


02581
いとけなく伴はれ来しその児とも睦みつつ剥くしたたる桃を
イトケナク トモナハレキシ ソノコトモ ムツミツツムク シタタルモモヲ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.156
【初出】 『形成』 1973.12 「無題」 (1)


02582
白桃の季節去年よりしづかなるわれかと思ふ水に浮けつつ
ハクトウノ キセツコゾヨリ シヅカナル ワレカトオモフ ミズニウケツツ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.156
【初出】 『形成』 1973.12 「無題」 (2)


02583
断ち切られまたつながれてすべ知らぬ思ひに今朝は彼岸会にゆく
タチキラレ マタツナガレテ スベシラヌ オモヒニケサハ ヒガンエニユク

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.156
【初出】 『形成』 1973.8 「無題」 (5)


02584
秋海棠を好みゐしうからみな在らず土やはらかし墓への道は
シュウカイドウヲ コノミヰシウカラ ミナアラズ ツチヤハラカシ ハカヘノミチハ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.157
【初出】 『形成』 1973.12 「無題」 (6)


02585
売られゐる秋の野菜の美しさ厨のことにうとく過ぎつつ
ウラレヰル アキノヤサイノ ウツクシサ クリヤノコトニ ウトクスギツツ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.157
【初出】 『形成』 1973.12 「無題」 (7)