たれも還らぬ


02618
地球儀のバシー海峡濃き青に光りゐてあはれ誰も還らぬ
チキュウギノ バシーカイキョウ コキアオニ テリヰテアハレ タレモカエラヌ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.170
【初出】 『現代短歌』 1974.7 たれも還らぬ (1)


02619
若き日に住めるかの町夢にさへ鉱滓は夜空に輝きやまず
ワカキヒニ スメルカノマチ ユメニサヘ ノロハヨゾラニ カガヤキヤマズ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.170
【初出】 『現代短歌』 1974.7 たれも還らぬ (2)


02620
今欲しきもの何ならむ一粒のムーンストン手の上に乗せつつ
イマホシキ モノナニナラム ヒトツブノ ムーンストンテノ ウエニノセツツ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.171
【初出】 『現代短歌』 1974.7 たれも還らぬ (3)


02621
われの手に抱かむとせる不意をつき人形は目と下顎うごく
ワレノテニ イダカムトセル フイヲツキ アヤツリハメト シタアゴウゴク

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.171
【初出】 『現代短歌』 1974.7 たれも還らぬ (4)


02622
広間には人の声満ちシャンデリアの重さばかりをわれの思へる
ヒロマニハ ヒトノコエミチ シャンデリアノ オモサバカリヲ ワレノオモヘル

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.171
【初出】 『現代短歌』 1974.7 たれも還らぬ (5)


02623
身を引きて得し空間に光りつつ針のやうなる雨かと思ふ
ミヲヒキテ エシクウカンニ ヒカリツツ ハリノヤウナル アメカトオモフ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.172
【初出】 『現代短歌』 1974.7 たれも還らぬ (7)


02624
うす雲の空に風ある日と思ひ電送受像機のそばに働く
ウスグモノ ソラニカゼアル ヒトオモヒ テレフアツクスノ ソバニハタラク

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.172
【初出】 『現代短歌』 1974.7 たれも還らぬ (13)


02625
目に見えて人のこころの動く日か原紙一枚切らむとゐるに
メニミエテ ヒトノココロノ ウゴクヒカ ゲンシイチマイ キラムトヰルニ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.172
【初出】 『現代短歌』 1974.7 たれも還らぬ (15)


02626
銃口のいづこと知れず真つ白のあひるを死なしむアニメーションは
ジュウコウノ イヅコトシレズ マツシロノ アヒルヲシナシム アニメーションハ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.173
【初出】 『現代短歌』 1974.7 たれも還らぬ (12)


02627
雪の降る駅や港の夢ばかり薬にたより眠る夜毎は
ユキノフル エキヤミナトノ ユメバカリ クスリニタヨリ ネムルヨゴトハ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.173
【初出】 『現代短歌』 1974.7 たれも還らぬ (19)