冬のてのひら


02633
むらさきに芽ぐむ木立は何の木かわれはまだ持つ冬のてのひら
ムラサキニ メグムコダチハ ナンノキカ ワレハマダモツ フユノテノヒラ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.176
【初出】 『短歌研究』 1974.3 冬のてのひら (1)


02634
台詞よりやや遅れつつ人形の手はうごきたり泣かむとぞして
セリフヨリ ヤヤオクレツツ ギニヨールノ テハウゴキタリ ナカムトゾシテ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.176
【初出】 『短歌研究』 1974.3 冬のてのひら (2)


02635
切り分けしメロンの舳先鋭くてこの上に何をわれは失ふ
キリワケシ メロンノヘサキ スルドクテ コノウエニナニヲ ワレハウシナフ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.177
【初出】 『短歌研究』 1974.3 冬のてのひら (3)


02636
行き交ひの静かなる日と気づきたりミシンのあとを片付けてゐて
ユキカヒノ シズカナルヒト キヅキタリ ミシンノアトヲ カタヅケテヰテ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.177
【初出】 『短歌研究』 1974.3 冬のてのひら (4)


02637
使ひたる握り鋏のかたちなどつむれば見えて朱のなかの黒
ツカヒタル ニギリバサミノ カタチナド ツムレバミエテ シュノナカノクロ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.177
【初出】 『短歌研究』 1974.3 冬のてのひら (5)


02638
ばらばらの繊維となるまで髪を梳きひとりゐがたき夜を如何にする
バラバラノ センイトナルマデ カミヲスキ ヒトリヰガタキ ヨヲイカニスル

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.178
【初出】 『短歌研究』 1974.3 冬のてのひら (6)


02639
手に乗せてさまざまに形を変へて見てまた仕舞ふ粘土か何かのやうに
テニノセテ サマザマニカタチヲ カヘテミテ マタシマフネンドカ ナニカノヤウニ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.178
【初出】 『短歌研究』 1974.3 冬のてのひら (7)


02640
門灯を消し忘れゐて夜の更けに人を待つ身のごときひそけさ
モントウヲ ケシワスレヰテ ヨノフケニ ヒトヲマツミノ ゴトキヒソケサ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.178
【初出】 『短歌研究』 1974.3 冬のてのひら (8)


02641
石像の一つにうすく彫られゐしクルスか重しこの夜の胸に
セキゾウノ ヒトツニウスク ホラレヰシ クルスカオモシ コノヨノムネニ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.179
【初出】 『短歌研究』 1974.3 冬のてのひら (9)


02642
雪の日の沼のやうなるさびしさと思ひてゐしがいつしか眠る
ユキノヒノ ヌマノヤウナル サビシサト オモヒテヰシガ イツシカネムル

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.179
【初出】 『短歌研究』 1974.3 冬のてのひら (10)