あえかに雪の


02643
音のして闇に目ざむる驚きは野に棲む兎もわれもかはらぬ
オトノシテ ヤミニメザムル オドロキハ ノニスムウサギモ ワレモカハラヌ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.180
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (1)


02644
まつはれる霧の流れをうす青く染めて明けゆくいづこの森か
マツハレル キリノナガレヲ ウスアオク ソメテアケユク イヅコノモリカ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.180
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (2)


02645
白地図に聚落を埋め川を塗りひとりはさびし家あることも
ハクチズニ シュウラクヲウメ カワヲヌリ ヒトリハサビシ イエアルコトモ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.181
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (3)


02646
傷つきてゐるのみの日と思はねどしづくするとき光るつららは
キズツキテ ヰルノミノヒト オモハネド シヅクスルトキ ヒカルツララハ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.181
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (4)


02647
人形のやうに吊りあげられゐしがくづをれゆきぬ影から先に
ニンギョウノ ヤウニツリアゲ ラレヰシガ クヅヲレユキヌ カゲカラサキニ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.181
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (5)


02648
一夜寝てとれぬ疲れか道の上に落ちゐるものの穏やかならぬ
ヒトヨネテ トレヌツカレカ ミチノウエニ オチヰルモノノ オダヤカナラヌ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.182
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (6)


02649
這ひ松の茂みをひろげゆく仕事幾人と知れずみなかがみゐて
ハヒマツノ シゲミヲヒロゲ ユクシゴト イクタリトシレズ ミナカガミヰテ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.182
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (7)


02650
クレーン車もかき消されつつ降りやまぬ雪のひと日の目の賑はひよ
クレーンシャモ カキケサレツツ フリヤマヌ ユキノヒトヒノ メノニギハヒヨ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.182
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (8)


02651
描きあげむ日のいつ知れぬわれの絵にヒマラヤ杉はうなだれて立つ
カキアゲム ヒノイツシレヌ ワレノエニ ヒマラヤスギハ ウナダレテタツ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.183
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (9)


02652
石畳いつしか切れて雪の道こよひ会はねば生涯会へず
イシダタミ イツシカキレテ ユキノミチ コヨヒアハネバ ショウガイアヘズ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.183
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (10)


02653
濡れし痕のありて届ける封筒に人の書きたるわが名けぶらふ
ヌレシアトノ アリテトドケル フウトウニ ヒトノカキタル ワガナケブラフ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.183
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (11)


02654
道のべに消残る雪のくぐまりにかかづらふわが歩みも久し
ミチノベニ ケノコルユキノ クグマリニ カカヅラフワガ アユミモヒサシ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.184
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (12)


02655
ポケットに入れしままなるもろ手よりくすぶり出づる何の記憶か
ポケットニ イレシママナル モロテヨリ クスブリイヅル ナンノキオクカ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.184
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (13)