ふたたび雪


02669
迫りたる仕事怠り編みてゐるいつの日旅に持たむストール
セマリタル シゴトオコタリ アミテヰル イツノヒタビニ モタムストール

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.189
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (27)


02670
降りやまぬまま雪となるけはひして南の庭の笹の葉が鳴る
フリヤマヌ ママユキトナル ケハヒシテ ミナミノニワノ ササノハガナル

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.190
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (28)


02671
輪郭のうすれてそのまま消えゆける夢なりしかば会ひたしすぐに
リンカクノ ウスレテソノママ キエユケル ユメナリシカバ アヒタシスグニ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.190
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (29)


02672
助からぬいのちと決めて病みゐたる一年前と同じ雪降る
タスカラヌ イノチトキメテ ヤミヰタル イチネンマエト オナジユキフル

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.190
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (30)


02673
意味のある一歩一歩と思はずに急ぐ日多し今朝は雪みち
イミノアル イッポイッポト オモハズニ イソグヒオオシ ケサハユキミチ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.191
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (31)


02674
信号にとまれるバスの窓に見え小鳥屋の店はいまだ開かぬ
シンゴウニ トマレルバスノ マドニミエ コトリヤノミセハ イマダヒラカヌ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.191
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (32)


02675
卵生まぬ鶏をながく飼ひたりき雪は呼びくる古りし会話を
タマゴウマヌ ニワトリヲナガク カヒタリキ ユキハヨビクル フリシカイワヲ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.191
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (33)


02676
すぐ本の見つかりなどして誰にかに守られてゐると思ふしばしば
スグホンノ ミツカリナドシテ タレニカニ マモラレテヰルト オモフシバシバ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.192
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (34)


02677
右の手のこのまましびれてしまふとも左手に得よ必ず何か
ミギノテノ コノママシビレテ シマフトモ ヒダリテニエヨ カナラズナニカ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.192
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (35)


02678
どのやうに思ひ狭めて生くるともただ骨となる人間ひとり
ドノヤウニ オモヒセバメテ イクルトモ タダホネトナル ニンゲンヒトリ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.192
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (37)


02679
幾夜さか同じ夢見てみづからの本音といふを知るはせつなき
イクヨサカ オナジユメミテ ミヅカラノ ホンネトイフヲ シルハセツナキ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.193
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (38)


02680
欲深に生まれかはりなどせむよりは今のままなるさびしさもよし
ヨクフカニ ウマレカハリナド セムヨリハ イマノママナル サビシサモヨシ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.193
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (39)


02681
残りたる根じめの黄菊も咲き切りて夜ごとに重き花びらの量
ノコリタル ネジメノキギクモ サキキリテ ヨゴトニオモキ ハナビラノカサ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.193
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (40)