春近く


02682
いつのまに隔たりて亡き人のため灯籠に火を入るる夜は来ぬ
イツノマニ ヘタダリテナキ ヒトノタメ トウロウニヒヲ イルルヨハキヌ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.194
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (42)


02683
たわいなき年端に四年住みたりきをりをり出づる大和の訛り
タワイナキ トシハニヨネン スミタリキ ヲリヲリイヅル ヤマトノナマリ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.194
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (43)


02684
霜の夜の冴えにはろけく塔の空あえかに雪の舞ひてをらずや
シモノヨノ サエニハロケク トウノソラ アエカニユキノ マヒテヲラズヤ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.195
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (44)


02685
すきまなく覆へる雲を映しゐる沼と思ふにふくらみやまぬ
スキマナク オホヘルクモヲ ウツシヰル ヌマトオモフニ フクラミヤマヌ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.195
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (45)


02686
背の色を白くたぎらせ水面に鯉の集ふは如何なる刻か
セノイロヲ シロクタギラセ スイメンニ コイノツドフハ イカナルトキカ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.195
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (46)


02687
枯れ原も凪ぎわたりつつ子どもらはパンダのやうにまろびて遊ぶ
カレハラモ ナギワタリツツ コドモラハ パンダノヤウニ マロビテアソブ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.196
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (47)


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アルプスも春近しとぞ雪の上に羽毛散らして鳥の戦ふ
アルプスモ ハルチカシトゾ ユキノウエニ ウモウチラシテ トリノタタカフ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.196
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (48)


02689
虎杖のはつかに萌えてゐたりしか籠り居に恋ふそのくれなゐを
イタドリノ ハツカニモエテ ヰタリシカ コモリイニコフ ソノクレナヰヲ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.196
【初出】 『短歌研究』 1974.4 あえかに雪の (50)