目次
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全短歌(歌集等)
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雲の地図
十方の闇
くぐり抜けて
雨となる
はろけきは
とどこほり
人を焼く
また訪はむ
人の亡き
ひなげしは
傘さして
はばからぬ
つぎつぎに
仕事より
すぐ乾く
触るるもの
長びける
02702
くぐり抜けて来て並ぶ影を踏む道となりつつもろし夜の会話は
クグリヌケテ キテナラブカゲヲ フムミチト ナリツツモロシ ヨルノカイワハ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.202
【初出】
『短歌新聞』 1974.8 十方の闇 (1)
02703
雨となるけはひを言ひて身に痛く触れしことには答へず歩む
アメトナル ケハヒヲイヒテ ミニイタク フレシコトニハ コタヘズアユム
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.202
【初出】
『短歌新聞』 1974.8 十方の闇 (2)
02704
はろけきは貨車のひびきか夜をこめて運ばれてゆくけものもあらむ
ハロケキハ カシャノヒビキカ ヨヲコメテ ハコバレテユク ケモノモアラム
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.203
【初出】
『短歌新聞』 1974.8 十方の闇 (3)
02705
とどこほりふり返りつつ鶏の人のごとくに歩むと思ふ
トドコホリ フリカエリツツ ニワトリノ ヒトノゴトクニ アユムトオモフ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.203
【初出】
『短歌新聞』 1974.8 十方の闇 (4)
02706
人を焼く炉のとどろきの残りゐて鋪道を歩む靴もひびかぬ
ヒトヲヤク ロノトドロキノ ノコリヰテ ホドウヲアユム クツモヒビカヌ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.203
【初出】
『短歌新聞』 1974.8 十方の闇 (5)
02707
また訪はむ日のいつ知れず去りゆくに縞なして流るる若葉木立は
マタトハム ヒノイツシレズ サリユクニ シマナシテナガルル ワカバコダチハ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.204
【初出】
『短歌新聞』 1974.8 十方の闇 (6)
02708
人の亡きあとの苦しさ過ぎてゆく日の数などに意味もたせつつ
ヒトノナキ アトノクルシサ スギテユク ヒノカズナドニ イミモタセツツ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.204
【初出】
『短歌新聞』 1974.8 十方の闇 (7)
02709
ひなげしは白のみとなりトレーシングペーパーほどの薄き花びら
ヒナゲシハ シロノミトナリ トレーシング ペーパーホドノ ウスキハナビラ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.204
【初出】
『短歌新聞』 1974.8 十方の闇 (8)
02710
傘さして帰りゆきたり甲虫の体温のことを言ひゐし児らも
カササシテ カエリユキタリ コウチュウノ タイオンノコトヲ イヒヰシコラモ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.205
【初出】
『短歌新聞』 1974.8 十方の闇 (9)
02711
はばからぬ声に家族のなじり合ふ会話続けり雨夜のバスに
ハバカラヌ コエニカゾクノ ナジリアフ カイワツヅケリ アマヨノバスニ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.205
【初出】
『短歌新聞』 1974.8 十方の闇 (10)
02712
つぎつぎに鶴も死ぬとぞ脱ぎ捨てし手袋が持つ十方の闇
ツギツギニ ツルモシヌトゾ ヌギステシ テブクロガモツ ジッポウノヤミ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.205
【初出】
『短歌新聞』 1974.8 十方の闇 (11)
02713
仕事より解かれぬわれか黄のカード飛び交ふ夢を夜もすがら見て
シゴトヨリ トカレヌワレカ キノカード トビカフユメヲ ヨモスガラミテ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.206
【初出】
『短歌新聞』 1974.8 十方の闇 (12)
02714
すぐ乾くブラウスと知るやさしさに泡だてて揉む胸の部分を
スグカワク ブラウストシル ヤサシサニ アワダテテモム ムネノブブンヲ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.206
【初出】
『短歌新聞』 1974.8 十方の闇 (13)
02715
触るるものみなつめたきに紫陽花の花咲くあたり日の差してゐる
フルルモノ ミナツメタキニ アジサイノ ハナサクアタリ ヒノサシテヰル
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.206
【初出】
『短歌新聞』 1974.8 十方の闇 (14)
02716
長びける会議のさなか夏雲を追はむに狭しオフィスの窓は
ナガビケル カイギノサナカ ナツグモヲ オハムニセマシ オフィスノマドハ
『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.207
【初出】
『短歌新聞』 1974.8 十方の闇 (15)