花びらは湧け


02717
玉虫をあまた集めき玉虫をなべて逃がしきこの白き手に
タマムシヲ アマタアツメキ タマムシヲ ナベテニガシキ コノシロキテニ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.208
【初出】 『短歌』 1974.8 花びらは湧け (1)


02718
ダンプカーの砂利おろすさま音立ててあと戻りする時間のごとき
ダンプカーノ ジャリオロスサマ オトタテテ アトモドリスル ジカンノゴトキ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.208
【初出】 『短歌』 1974.8 花びらは湧け (2)


02719
橋の上に立ちて淀みにふり撒かむ花びらは湧けわがもろ手より
ハシノウエニ タチテヨドミニ フリマカム ハナビラハワケ ワガモロテヨリ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.209
【初出】 『短歌』 1974.8 花びらは湧け (3)


02720
花の名など思へるひまに輪郭をくづして溶けてゆくシャーベット
ハナノナナド オモヘルヒマニ リンカクヲ クヅシテトケテ ユクシャーベット

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.209
【初出】 『短歌』 1974.8 花びらは湧け (4)


02721
テーブルをかこみて語りゐたりしが他人のやうにはわれを見ざりき
テーブルヲ カコミテカタリ ヰタリシガ タニンノヤウニハ ワレヲミザリキ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.209
【初出】 『短歌』 1974.8 花びらは湧け (5)


02722
雨あとのしづくの音を集めゐて何を聴きたき耳かと思ふ
アメアトノ シヅクノオトヲ アツメヰテ ナニヲキキタキ ミミカトオモフ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.210
【初出】 『短歌』 1974.8 花びらは湧け (6)


02723
黒髪を燃えあがらせてやみくもに駆けりゆきたり目ざめしあとも
クロカミヲ モエアガラセテ ヤミクモニ カケリユキタリ メザメシアトモ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.210
【初出】 『短歌』 1974.8 花びらは湧け (7)


02724
何によりをみな子などに生れしや耳に涙をためつつ眠る
ナンニヨリ ヲミナゴナドニ ウマレシヤ ミミニナミダヲ タメツツネムル

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.210
【初出】 『短歌』 1974.8 花びらは湧け (8)


02725
人の体に等高線をゑがける図見て立ちくれば身がやはらかし
ヒトノカラダニ トウコウセンヲ ヱガケルズ ミテタチクレバ ミガヤハラカシ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.211
【初出】 『短歌』 1974.8 花びらは湧け (9)


02726
今はただミシンを踏まむ石ころのやうにころがり落ちてもゆけず
イマハタダ ミシンヲフマム イシコロノ ヤウニコロガリ オチテモユケズ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.211
【初出】 『短歌』 1974.8 花びらは湧け (10)