石か動く


02727
フリージアの匂ひして来ぬうたた寝のあとの朧ろもいつしか澄みて
フリージアノ ニオヒシテキヌ ウタタネノ アトノオボロモ イツシカスミテ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.212
【初出】 『雁』 1974.3 石か動く (1)


02728
共に行く旅など思ひ見がたきに海辺のやうな雲の湧く日よ
トモニユク タビナドオモヒ ミガタキニ ウミベノヤウナ クモノワクヒヨ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.212
【初出】 『雁』 1974.3 石か動く (2)


02729
間隔を測る人ゐて幾つもの礎石浮き出づ枯れ野の上に
カンカクヲ ハカルヒトヰテ イクツモノ ソセキウキイヅ カレノノウエニ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.213
【初出】 『雁』 1974.3 石か動く (3)


02730
目の前をよぎる無蓋車菜の花の黄より明るく硫黄を積めり
メノマエヲ ヨギルムガイシャ ナノハナノ キヨリアカルク イオウヲツメリ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.213
【初出】 『雁』 1974.3 石か動く (4)


02731
偏平の小さき魚ら舞ひあがる石か動くと思へるときに
ヘンペイノ チイサキウオラ マヒアガル イシカウゴクト オモヘルトキニ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.213
【初出】 『雁』 1974.3 石か動く (5)


02732
いつ知れず雪の降りゐてかすかなるわが指の影灰皿の影
イツシレズ ユキノフリヰテ カスカナル ワガユビノカゲ ハイザラノカゲ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.214
【初出】 『雁』 1974.3 石か動く (6)


02733
ライターをともしつつ探す何ならむベンチのあたり気配うごきて
ライターヲ トモシツツサガス ナニナラム ベンチノアタリ ケハイウゴキテ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.214
【初出】 『雁』 1974.3 石か動く (7)


02734
持ち歩み眠れる間さへ離さぬに呼ぶ日無からむ声に出でては
モチアユミ ネムレルマサヘ ハナサヌニ ヨブヒナカラム コエニイデテハ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.214
【初出】 『雁』 1974.3 石か動く (8)


02735
目の部分顎の部分と区切るときさだかには人を覚えてをらず
メノブブン アゴノブブント クギルトキ サダカニハヒトヲ オボエテヲラズ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.215
【初出】 『雁』 1974.3 石か動く (9)


02736
胸赤き山雀の子の来てゐしが柿の実も暮れて漆黒の珠
ムネアカキ ヤマガラノコノ キテヰシガ カキノミモクレテ シッコクノタマ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.215
【初出】 『雁』 1974.3 石か動く (10)


02737
乱れたる書架も映れり仮縫ひの肩幅を見る夜の鏡に
ミダレタル ショカモウツレリ カリヌヒノ カタハバヲミル ヨルノカガミニ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.215
【初出】 『雁』 1974.3 石か動く (11)


02738
胸痛むまで悔いをればいつか見し切り絵の花火割れてひらきぬ
ムネイタム マデクイヲレバ イツカミシ キリエノハナビ ワレテヒラキヌ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.216
【初出】 『雁』 1974.3 石か動く (12)


02739
足音の家をめぐると聴きてをりわが歩みたる音かも知れず
アシオトノ イエヲメグルト キキテヲリ ワガアユミタル オトカモシレズ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.216
【初出】 『雁』 1974.3 石か動く (13)


02740
たれの持つ大き白き手ひらめきてわがくらやみをよぎるときあり
タレノモツ オオキシロキテ ヒラメキテ ワガクラヤミヲ ヨギルトキアリ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.216
【初出】 『雁』 1974.3 石か動く (14)


02741
身を窶し幾夜ありけむ晒したるごとき白さに雲のたゆたふ
ミヲヤツシ イクヨアリケム サラシタル ゴトキシロサニ クモノタユタフ

『雲の地図』(短歌新聞社 1975) p.217
【初出】 『雁』 1974.3 石か動く (15)