たれの決めたる


02793
道のべの紫苑の花も過ぎむとしたれの決めたる高さに揃ふ
ミチノベノ シオンノハナモ スギムトシ タレノキメタル タカサニソロフ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.10
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (1)


02794
詣で来て思ひは尽きず補ひし御手のつぎ目もつぶさに見たる
モウデキテ オモヒハツキズ オギナヒシ ミテノツギメモ ツブサニミタル

『野分の章』(牧羊社 1978) p.10
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (2)


02795
夜の霧に濡れたる髪を梳かむとす旅に持ち来し小さき櫛に
ヨノキリニ ヌレタルカミヲ スカムトス タビニモチコシ チイサキクシニ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.11
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (3)


02796
数をそろへ磨きおくとも一本づつ使ふ日多きスプーンとフォーク
カズヲソロヘ ミガキオクトモ イッポンヅツ ツカフヒオオキ スプーントフォーク

『野分の章』(牧羊社 1978) p.11
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (8)


02797
冷えしるき夜を起きをればこの家にまつはるやうにこほろぎは啼く
ヒエシルキ ヨヲオキヲレバ コノイエニ マツハルヤウニ コホロギハナク

『野分の章』(牧羊社 1978) p.11
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (9)


02798
追はれゐる夢をのがれしまどろみに風はけものの声なして鳴る
オハレヰル ユメヲノガレシ マドロミニ カゼハケモノノ コエナシテナル

『野分の章』(牧羊社 1978) p.12
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (10)


02799
スリッパの爪先を揃へ置きて出づ夜に帰り来むみづからのため
スリッパノ ツマサキヲソロヘ オキテイヅ ヨニカエリコム ミヅカラノタメ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.12
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (11)


02800
街灯のほとりを過ぎし人の影影のみとなり遠ざかりたり
ガイトウノ ホトリヲスギシ ヒトノカゲ カゲノミトナリ トオザカリタリ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.12
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (12)


02801
石階のどの面もすでに暗みゐて落ち込むごとき思ひにくだる
セツカイノ ドノメンモスデニ クラミヰテ オチコムゴトキ オモヒニクダル

『野分の章』(牧羊社 1978) p.13
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (13)


02802
夜に入りて物音あらず少年を入院させし隣の家は
ヨニイリテ モノオトアラズ ショウネンヲ ニュウインサセシ トナリノイエハ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.13
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (14)


02803
膝の上に編みものを置きて聞く電話雪の降る夜と告げつつ遠し
ヒザノウエニ アミモノヲオキテ キクデンワ ユキノフルヨト ツゲツツトオシ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.13
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (15)


02804
不可思識を思ふならねど仰ぎ見てかすかに埴輪の向きの変れる
フカシギヲ オモフナラネド アオギミテ カスカニハニワノ ムキノカワレル

『野分の章』(牧羊社 1978) p.14
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (16)


02805
痛きまで胸締めて出づる朝々にたのしきことの待つにもあらず
イタキマデ ムネシメテイヅル アサアサニ タノシキコトノ マツニモアラズ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.14
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (17)


02806
日の暮れの早くなりたりあたたかき夕餉食まむにわが家も遠し
ヒノクレノ ハヤクナリタリ アタタカキ ユウゲハマムニ ワガヤモトオシ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.14
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (18)


02807
きれぎれに光りつつ降る夜の雨落ち葉が匂ふ道を曲れば
キレギレニ ヒカリツツフル ヨルノアメ オチバガニオフ ミチヲマガレバ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.15
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (19)


02808
洋傘へあつまる夜の雨の音さびしき音を家まではこぶ
カウモリヘ アツマルヨルノ アメノオト サビシキオトヲ イエマデハコブ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.15
【初出】 『形成』 1975.1 誰の決めたる (20)