何のはずみに


02841
帰るべき家を互に持つことも救ひのごとし暮れゆく道に
カエルベキ イエヲカタミニ モツコトモ スクヒノゴトシ クレユクミチニ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.28
【初出】 『短歌研究』 1975.3 何のはずみに (1)


02842
反応をためしをはれば用無くて帰り来りぬ一直線に
ハンノウヲ タメシヲハレバ ヨウナクテ カエリキタリヌ イッチョクセンニ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.28
【初出】 『短歌研究』 1975.3 何のはずみに (2)


02843
夜のバスにゆさぶられ来て坐るとき身に戻りゐる自意識一個
ヨノバスニ ユサブラレキテ スワルトキ ミニモドリヰル ジイシキイッコ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.29
【初出】 『短歌研究』 1975.3 何のはずみに (3)


02844
もう何も見えぬ位置までへだたりて敵意のごとし残る思ひは
モウナニモ ミエヌイチマデ ヘダタリテ テキイノゴトシ ノコルオモヒハ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.29
【初出】 『短歌研究』 1975.3 何のはずみに (4)


02845
選り分けてまた活くる花捨つる花鉄砲百合はいまだひらかぬ
ヨリワケテ マタイクルハナ スツルハナ テッポウユリハ イマダヒラカヌ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.29
【初出】 『短歌研究』 1975.3 何のはずみに (5)


02846
握力のにぶくなりつつ起きゐるに指にレモンの香がよみがへる
アクリョクノ ニブクナリツツ オキヰルニ ユビニレモンノ カガヨミガヘル

『野分の章』(牧羊社 1978) p.30
【初出】 『短歌研究』 1975.3 何のはずみに (7)


02847
絵蠟燭も燃え尽きしいま春の夜の闇より深しわが持つ闇は
エロウソクモ モエツキシイマ ハルノヨノ ヤミヨリフカシ ワガモツヤミハ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.30
【初出】 『短歌研究』 1975.3 何のはずみに (8)


02848
われを吊る無数の糸も光り出す飽かず糸吐く虫を見をれば
ワレヲツル ムスウノイトモ ヒカリダス アカズイトハク ムシヲミヲレバ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.30
【初出】 『短歌研究』 1975.3 何のはずみに (9)


02849
絨緞に鋲のひそめるごとき日よこころさわだついづこ行きても
ジュウタンニ ビョウノヒソメル ゴトキヒヨ ココロサワダツ イヅコユキテモ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.31
【初出】 『短歌研究』 1975.3 何のはずみに (10)