目次
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全短歌(歌集等)
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野分の章
帰らざる時
出おくれて
昼も夜も
伴ひて
音もなく
二重硝子の
曇りのまま
辞めてどうなる
手を使ふ
耳もとを
ウインドウに
穂に立ちて
背後より
生き死にも
木枯らしの
02850
出おくれてひそめる鳩のごとき日か風出でてまた棕櫚の葉が鳴る
デオクレテ ヒソメルハトノ ゴトキヒカ カゼイデテマタ シュロノハガナル
『野分の章』(牧羊社 1978) p.32
【初出】
『形成』 1975.3 「無題」 (1)
02851
昼も夜も竹の落ち葉を聞くのみの日々と告げくるまれの便りに
ヒルモヨモ タケノオチバヲ キクノミノ ヒビトツゲクル マレノタヨリニ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.32
【初出】
『形成』 1975.3 「無題」 (2)
02852
伴ひて渚に貝を拾ひつつ訛りのとれしわれをさびしむ
トモナヒテ ナギサニカイヲ ヒロヒツツ ナマリノトレシ ワレヲサビシム
『野分の章』(牧羊社 1978) p.33
【初出】
『形成』 1975.3 「無題」 (3)
02853
音もなく舞ひくる雪の幾ひらはしばしとどまるコートの胸に
オトモナク マヒクルユキノ イクヒラハ シバシトドマル コートノムネニ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.33
【初出】
『形成』 1975.3 「無題」 (4)
02854
二重硝子のかなたさわだち帰らざる時を刻むか寄する波さへ
ニジュウガラスノ カナタサワダチ カエラザル トキヲキザムカ ヨスルナミサヘ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.33
【初出】
『形成』 1975.3 「無題」 (5)
02855
曇りのまま日は暮れむとし灰いろの布一枚となる冬の海
クモリノママ ヒハクレムトシ ハイイロノ ヌノイチマイト ナルフユノウミ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.34
【初出】
『形成』 1975.3 「無題」 (6)
02856
辞めてどうなるあてもなき身にいつまでも退職願のよごれしを持つ
ヤメテドウナル アテモナキミニ イツマデモ タイショクネガイノ ヨゴレシヲモツ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.34
【初出】
『形成』 1975.3 「無題」 (7)
02857
手を使ふ職場と思ふ指の先割るる季節のはやめぐり来て
テヲツカフ ショクバトオモフ ユビノサキ ワルルキセツノ ハヤメグリキテ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.34
【初出】
『形成』 1975.4 「無題」 (1)
02858
耳もとを去らずめぐるは今朝見たる石蕗にゐし蜂かも知れぬ
ミミモトヲ サラズメグルハ ケサミタル ツワブキニヰシ ハチカモシレヌ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.35
【初出】
『形成』 1975.4 「無題」 (2)
02859
ウインドウに売れ残りゐる湖の絵にも降りゐむこよひの雪は
ウインドウニ ウレノコリヰル ミズウミノ エニモフリヰム コヨヒノユキハ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.35
【初出】
『形成』 1975.4 「無題」 (3)
02860
穂に立ちて照りゐし朱実今朝あらず南天はうすく雪を溜めつつ
ホニタチテ テリヰシアケミ ケサアラズ ナンテンハウスク ユキヲタメツツ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.35
【初出】
『形成』 1975.4 「無題」 (4)
02861
背後よりきらめく波を見たるのみ寒かりし海の記憶も古りぬ
ハイゴヨリ キラメクナミヲ ミタルノミ サムカリシウミノ キオクモフリヌ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.36
【初出】
『形成』 1975.4 「無題」 (5)
02862
生き死にもさだかならぬに夢に来てわれをさいなむ昔のままに
イキシニモ サダカナラヌニ ユメニキテ ワレヲサイナム ムカシノママニ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.36
【初出】
『形成』 1975.4 「無題」 (6)
02863
木枯らしのなか行くときに身に沁みてわが持つ傷よ千の過失よ
コガラシノ ナカユクトキニ ミニシミテ ワガモツキズヨ センノカシツヨ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.36
【初出】
『形成』 1975.4 「無題」 (7)