夏の落ち葉


02864
水の音に消されて何も言へざりき言へざりしこともよろこびに似る
ミズノオトニ ケサレテナニモ イヘザリキ イヘザリシコトモ ヨロコビニニル

『野分の章』(牧羊社 1978) p.37
【初出】 『短歌公論』 1975.8 夏の落ち葉 (2)


02865
何に触るるか不吉なこの手マニキュアの乾くまで見て手袋を嵌む
ナンニフルルカ フキツナコノテ マニキュアノ カワクマデミテ テブクロヲハム

『野分の章』(牧羊社 1978) p.37
【初出】 『短歌公論』 1975.8 夏の落ち葉 (1)


02866
過ぎにしはなべて夢とよ花咲ける萩の茂みに道を塞がる
スギニシハ ナベテユメトヨ ハナサケル ハギノシゲミニ ミチヲフサガル

『野分の章』(牧羊社 1978) p.38
【初出】 『形成』 1976.10 「無題」 (5)


02867
台風の惨を伝へて厚板の如く流るる水とし言へり
タイフウノ サンヲツタヘテ アツイタノ ゴトクナガルル ミズトシイヘリ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.38
【初出】 『形成』 1976.10 「無題」 (4)


02868
荷の幾つ殖やししのみに帰り来ぬ夏の落ち葉のまばらを踏みて
ニノイクツ フヤシシノミニ カエリキヌ ナツノオチバノ マバラヲフミテ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.38
【初出】 『短歌公論』 1975.8 夏の落ち葉 (3)


02869
降り出づるまた雨の音時かけて髪梳くことも濃き思ひゆゑ
フリイヅル マタアメノオト トキカケテ カミスクコトモ コキオモヒユヱ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.39
【初出】 『短歌公論』 1975.8 夏の落ち葉 (4)


02870
星屑のただ湧くばかり目を閉ぢて作れる闇を押しひろげつつ
ホシクズノ タダワクバカリ メヲトヂテ ツクレルヤミヲ オシヒロゲツツ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.39
【初出】 『短歌公論』 1975.8 夏の落ち葉 (5)