目次
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全短歌(歌集等)
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野分の章
落ちてみひらく
花文字を
死の日まで
歩幅こまかに
遠眼鏡の
どの家も
自転車の
肩のやや
乱したる
ハイウエイの
得しものは
晩年の
解きものを
切り詰めて
黒真珠の
生きものを
何もかも
02937
花文字をうづめて雪の降るといふ異国にもゐむはらからならず
ハナモジヲ ウヅメテユキノ フルトイフ イコクニモヰム ハラカラナラズ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.64
【初出】
『短歌』 1976.2 落ちてみひらく (1)
02938
死の日までせぐくまりものを書くならむ落ちてみひらく椿の花は
シノヒマデ セグクマリモノヲ カクナラム オチテミヒラク ツバキノハナハ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.64
【初出】
『短歌』 1976.2 落ちてみひらく (2)
02939
歩幅こまかに走る子犬を伴ひて歩みゐき人も犬もまぼろし
ホハバコマカニ ハシルコイヌヲ トモナヒテ アユミヰキヒトモ イヌモマボロシ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.65
【初出】
『形成』 1976.1 雪の稜線 (3)
02940
遠眼鏡の奥にとらへし稜線のかすかに青く吹雪けるも見つ
トオメガネノ オクニトラヘシ リョウセンノ カスカニアオク フブケルモミツ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.65
【初出】
『形成』 1976.1 雪の稜線 (2)
02941
どの家も窓のかたちに灯のともる雪の夜ならむ遠きふるさと
ドノイエモ マドノカタチニ ヒノトモル ユキノヨナラム トオキフルサト
『野分の章』(牧羊社 1978) p.65
【初出】
『形成』 1976.1 雪の稜線 (1)
02942
自転車の二台渡りて行きしのみ橋の上にも雪は積もらむ
ジテンシャノ ニダイワタリテ ユキシノミ ハシノウエニモ ユキハツモラム
『野分の章』(牧羊社 1978) p.66
【初出】
『形成』 1976.1 雪の稜線 (4)
02943
肩のやや落ちしと思ふ仮縫ひの鏡にながく向かはされゐて
カタノヤヤ オチシトオモフ カリヌヒノ カガミニナガク ムカハサレヰテ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.66
【初出】
『形成』 1976.1 雪の稜線 (5)
02944
乱したる呼吸はみづからが知れるのみ手を挙げて遠き車を招く
ミダシタル コキュウハミヅカラガ シレルノミ テヲアゲテトオキ クルマヲマネク
『野分の章』(牧羊社 1978) p.66
【初出】
『形成』 1976.1 雪の稜線 (7)
02945
ハイウエイの夜霧に車を駆りゐつついつか失ふ急ぐ理由も
ハイウエイノ ヨギリニクルマヲ カリヰツツ イツカウシナフ イソグリユウモ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.67
【初出】
『形成』 1976.1 雪の稜線 (8)
02946
得しものは必ず失ふと知りながら諦めがたきまで持ち古りぬ
エシモノハ カナラズウシナフト シリナガラ アキラメガタキ マデモチフリヌ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.67
【初出】
『形成』 1976.1 雪の稜線 (10)
02947
晩年の運ひらけむと言はれ来し手相見なほすすべなきものを
バンネンノ ウンヒラケムト イハレコシ テソウミナホス スベナキモノヲ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.67
【初出】
『形成』 1976.1 雪の稜線 (9)
02948
解きものをしをれば心落ちつきてみまかりし人の手などの見え来
トキモノヲ シヲレバココロ オチツキテ ミマカリシヒトノ テナドノミエク
『野分の章』(牧羊社 1978) p.68
【初出】
『形成』 1976.1 雪の稜線 (11)
02949
切り詰めて再び生くる龍胆のみづみづと青しなんの証しに
キリツメテ フタタビイクル リンドウノ ミヅミヅトアオシ ナンノアカシニ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.68
【初出】
『形成』 1976.1 雪の稜線 (12)
02950
黒真珠の粒余すなくつなぎ終へ少し短くなりし首飾り
クロシンジュノ ツブアマスナク ツナギオヘ スコシミジカク ナリシクビカザリ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.68
【初出】
『形成』 1976.1 雪の稜線 (13)
02951
生きものを飼ふすべもなきひとりゐの軒に来て鳴くいづこの鳩か
イキモノヲ カフスベモナキ ヒトリヰノ ノキニキテナク イヅコノハトカ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.69
【初出】
『形成』 1976.1 雪の稜線 (14)
02952
何もかももとのままよと見回してながき旅より戻れるに似つ
ナニモカモ モトノママヨト ミマワシテ ナガキタビヨリ モドレルニニツ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.69
【初出】
『形成』 1976.1 雪の稜線 (15)