目次
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全短歌(歌集等)
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野分の章
新しき塩
巻くときの
招きたる
円なさぬ
ペプラムを
砂山の
美しく
通貨に如かぬ
木によりて
立ちそそる
太陽の
地上ニメートルに
果たさざる
アルミ箔の
生き残る
人に見せて
シェパードの
新聞を
羽根をのばす
肉親の
新しき
02983
巻くときの機械の力一瞬に解けて螺旋をなすカタン糸
マクトキノ キカイノチカラ イッシュンニ トケテラセンヲ ナスカタンイト
『野分の章』(牧羊社 1978) p.81
【初出】
『短歌』 1976.7 新しき塩 (1)
02984
招きたるわざはひにして夜を渡るしぐれの音のごとく過ぎにき
マネキタル ワザハヒニシテ ヨヲワタル シグレノオトノ ゴトクスギニキ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.81
【初出】
『短歌』 1976.7 新しき塩 (2)
02985
円なさぬ円を描きつぐ目の前に開きて緊まるガーベラの朱は
エンナサヌ エンヲカキツグ メノマエニ ヒラキテシマル ガーベラノシュハ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.82
【初出】
『短歌』 1976.7 新しき塩 (3)
02986
ペプラムを押へつつ行き海よりの風に身すがら煽られ易し
ペプラムヲ オサヘツツユキ ウミヨリノ カゼニミスガラ アオラレヤスシ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.82
【初出】
『短歌』 1976.7 新しき塩 (4)
02987
砂山のゆふべを来れば砂の上まだらなる陽の差すごとく差す
スナヤマノ ユフベヲクレバ スナノウエ マダラナルヒノ サスゴトクサス
『野分の章』(牧羊社 1978) p.82
【初出】
『短歌』 1976.7 新しき塩 (6)
02988
美しく見ゆる位置まで遠ざけて波うちぎはの露頭のごとし
ウツクシク ミユルイチマデ トオザケテ ナミウチギハノ ロトウノゴトシ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.83
【初出】
『短歌』 1976.7 新しき塩 (7)
02989
通貨に如かぬ言葉といへり夜の海は白き皮膜をなしてひろがる
ツウカニシカヌ コトバトイヘリ ヨノウミハ シロキヒマクヲ ナシテヒロガル
『野分の章』(牧羊社 1978) p.83
【初出】
『短歌』 1976.7 新しき塩 (8)
02990
木によりて異なる声を挙げゐると風の疎林を抜けつつ仰ぐ
キニヨリテ コトナルコエヲ アゲヰルト カゼノソリンヲ ヌケツツアオグ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.83
【初出】
『短歌』 1976.7 新しき塩 (10)
02991
立ちそそる太き煙突仰ぎゐて声出づるごとし煙出づるは
タチソソル フトキエントツ アオギヰテ コエイヅルゴトシ ケムリイヅルハ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.84
【初出】
『短歌』 1976.7 新しき塩 (5)
02992
太陽の国へ戻りてゆくための時間と思ひ地下書庫にゐる
タイヨウノ クニヘモドリテ ユクタメノ ジカントオモヒ チカショコニヰル
『野分の章』(牧羊社 1978) p.84
【初出】
『短歌』 1976.7 新しき塩 (9)
02993
地上ニメートルに人の溢れてゆきかへば上限のなき闇のみ思ふ
チジョウニメートルニ ヒトノアフレテ ユキカヘバ ジョウゲンノナキ ヤミノミオモフ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.84
【初出】
『短歌』 1976.7 新しき塩 (16)
02994
果たさざる約を持ちあふへだたりに白のつつじも花過ぎむとす
ハタサザル ヤクヲモチアフ ヘダタリニ シロノツツジモ ハナスギムトス
『野分の章』(牧羊社 1978) p.85
【初出】
『短歌』 1976.7 新しき塩 (11)
02995
アルミ箔の用途の一つ銀いろの鶴折りてわれの声なく遊ぶ
アルミハクノ ヨウトノヒトツ ギンイロノ ツルオリテワレノ コエナクアソブ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.85
【初出】
『短歌』 1976.7 新しき塩 (13)
02996
生き残る者のさだめに指輪もて傷つけし爪の血を噴きやまず
イキノコル モノノサダメニ ユビワモテ キズツケシツメノ チヲフキヤマズ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.85
【初出】
『短歌』 1976.7 新しき塩 (14)
02997
人に見せてみづからの見ぬ顔あらむ洗ひし髪の肩になだるる
ヒトニミセテ ミヅカラノミヌ カオアラム アラヒシカミノ カタニナダルル
『野分の章』(牧羊社 1978) p.86
【初出】
『短歌』 1976.7 新しき塩 (15)
02998
シェパードの一頭も飼はばたのしきかチヤウダーは香りよく煮つまりぬ
シェパードノ イットウモカハバ タノシキカ チヤウダーハカオリ ヨクニツマリヌ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.86
【初出】
『短歌』 1976.7 新しき塩 (17)
02999
新聞を畳まむとして起こしたる風に驚く夜更けのわれは
シンブンヲ タタマムトシテ オコシタル カゼニオドロク ヨフケノワレハ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.86
【初出】
『短歌』 1976.7 新しき塩 (18)
03000
羽根をのばすといふことのあり係累をうべなひていふ言葉と思ふ
ハネヲノバス トイフコトノアリ ケイルイヲ ウベナヒテイフ コトバトオモフ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.87
【初出】
『短歌』 1976.7 新しき塩 (19)
03001
肉親のみな失せたればいづこより来りしわれのいづこまで行く
ニクシンノ ミナウセタレバ イヅコヨリ キタリシワレノ イヅコマデユク
『野分の章』(牧羊社 1978) p.87
【初出】
『短歌』 1976.7 新しき塩 (20)
03002
新しき塩を掬ふべき手と思ふほとばしる水に打たせつつゐて
アタラシキ シオヲスクフベキ テトオモフ ホトバシルミズニ ウタセツツヰテ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.87
【初出】
『短歌』 1976.7 新しき塩 (21)