回転ドア


03024
コーヒーの香に立つ真昼合歓の木の作るやさしき樹蔭もあらむ
コーヒーノ カニタツマヒル ネムノキノ ツクルヤサシキ コカゲモアラム

『野分の章』(牧羊社 1978) p.96
【初出】 『形成』 1976.10 「無題」 (1)


03025
思はざる高みへ視線のゆく日にてみづきの花の真盛りに遇ふ
オモハザル タカミヘシセンノ ユクヒニテ ミヅキノハナノ マッサカリニアフ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.96
【初出】 『形成』 1976.10 「無題」 (2)


03026
おのづから強制力を持つならむ声やはらげて言ひても同じ
オノヅカラ キョウセイリョクヲ モツナラム コエヤハラゲテ イヒテモオナジ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.97
【初出】 『形成』 1976.6 「無題」 (2)


03027
残業に倦める一人が立ちゆきて回転ドアの光をまはす
ザンギヨウニ ウメルヒトリガ タチユキテ カイテンドアノ ヒカリヲマハス

『野分の章』(牧羊社 1978) p.97
【初出】 『形成』 1976.6 「無題」 (1)


03028
もう一人のわれは冷たく客観すしどろもどろになりゐるわれを
モウヒトリノ ワレハツメタク キャツカンス シドロモドロニ ナリヰルワレヲ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.97
【初出】 『形成』 1976.6 「無題」 (3)


03029
身一つを遊ばしむるにつたなくて駅のほとりの辛夷も終る
ミヒトツヲ アソバシムルニ ツタナクテ エキノホトリノ コブシモオワル

『野分の章』(牧羊社 1978) p.98
【初出】 『形成』 1976.6 「無題」 (4)


03030
残像の消えがたき日か萼のみとなれる桜を仰ぎゆきつつ
ザンゾウノ キエガタキヒカ ガクノミト ナレルサクラヲ アオギユキツツ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.98
【初出】 『形成』 1975.11 「無題」 (3)


03031
強かりし男の子もなべて滅びにき矛ふりかざし風化石像
ツヨカリシ ヲノコモナベテ ホロビニキ ホコフリカザシ フウカセキゾウ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.98
【初出】 『形成』 1976.6 「無題」 (6)


03032
信号に堰かれてをれば目の前はしづく垂りつつ待つ冷凍車
シンゴウニ セカレテヲレバ メノマエハ シヅクタリツツ マツレイトウシャ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.99
【初出】 『形成』 1976.10 「無題」 (3)


03033
堰を切りて流れたき日かもの言はぬことも思はぬ努力を要す
セキヲキリテ ナガレタキヒカ モノイハヌ コトモオモハヌ ドリョクヲヨウス

『野分の章』(牧羊社 1978) p.99
【初出】 『形成』 1976.10 「無題」 (7)


03034
葉がくれの青木つぶら実候鳥の持ち来し苞のごとく色づく
ハガクレノ アオキツブラミ コウチョウノ モチコシツトノ ゴトクイロヅク

『野分の章』(牧羊社 1978) p.99
【初出】 『形成』 1976.10 「無題」 (6)