目次
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全短歌(歌集等)
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野分の章
一匙の塩
ガラス戸の
一人一人の
海に近き
一面の
スフィンクスも
水を差す
暮れて来し
巻き尺の
理由など
喪の服を
人さらひの
帰りたる
ふるさとは
突き刺さる
かき立てて
逆説と
半ばにて
地下深く
告げ得ざる
03187
ガラス戸の外は夕映えさかさまにとまれる鳥のふと安定す
ガラスドノ ソトハユウバエ サカサマニ トマレルトリノ フトアンテイス
『野分の章』(牧羊社 1978) p.161
【初出】
『短歌』 1978.1 一匙の塩 (1)
03188
一人一人の児の挙ぐる声かたまりてこだまして騒音となるまでの距離
ヒトリヒトリノ コノアグルコエ カタマリテ コダマシテソウオント ナルマデノキョリ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.161
【初出】
『短歌』 1978.1 一匙の塩 (2)
03189
海に近き町ゆゑ雲の美しき空ならむビルの上にひらけて
ウミニチカキ マチユヱクモノ ウツクシキ ソラナラムビルノ ウエニヒラケテ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.162
【初出】
『短歌』 1978.1 一匙の塩 (3)
03190
一面の穂すすきのなか身をくらますよろこびあらむ子らの声する
イチメンノ ホススキノナカ ミヲクラマス ヨロコビアラム コラノコエスル
『野分の章』(牧羊社 1978) p.162
【初出】
『短歌』 1978.1 一匙の塩 (4)
03191
スフィンクスも見てゐむ雲と思ふまで砂丘の上の空の明るさ
スフィンクスモ ミテヰムクモト オモフマデ サキュウノウエノ ソラノアカルサ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.162
【初出】
『短歌』 1978.1 一匙の塩 (5)
03192
水を差すといふことのあり幼な子の持つ風車回りはじめぬ
ミズヲサス トイフコトノアリ オサナゴノ モツカザグルマ マワリハジメヌ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.163
【初出】
『短歌』 1978.1 一匙の塩 (6)
03193
暮れて来し海の上なる空は今ステンドグラスの青のいろなす
クレテコシ ウミノウエナル ソラハイマ ステンドグラスノ アオノイロナス
『野分の章』(牧羊社 1978) p.163
【初出】
『短歌』 1978.1 一匙の塩 (7)
03194
巻き尺の尾を胸に垂りて出でて来ついとけなき日に見たりし少女
マキジャクノ オヲムネニタリテ イデテキツ イトケナキヒニ ミタリシオトメ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.163
【初出】
『短歌』 1978.1 一匙の塩 (8)
03195
理由などどのやうにもつくと思へるにつたなきことを人の言ひたり
リユウナド ドノヤウニモツクト オモヘルニ ツタナキコトヲ ヒトノイヒタリ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.164
【初出】
『短歌』 1978.1 一匙の塩 (9)
03196
喪の服を雨に濡らして帰り来ぬ水を吸ひたる絹のおもたさ
モノフクヲ アメニヌラシテ カエリキヌ ミズヲスヒタル キヌノオモタサ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.164
【初出】
『短歌』 1978.1 一匙の塩 (10)
03197
人さらひの妖婆などにならむ年齢を思へりマリオネットを見つつ
ヒトサラヒノ ヨウバナドニナラム ネンレイヲ オモヘリマリオ ネットヲミツツ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.164
【初出】
『短歌』 1978.1 一匙の塩 (11)
03198
帰りたる合図に鳴らすクラクションどの家と知らず夜毎に聞きて
カエリタル アイズニナラス クラクション ドノイエトシラズ ヨゴトニキキテ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.165
【初出】
『短歌』 1978.1 一匙の塩 (12)
03199
ふるさとは山深き町諭されて一匙の塩も大切にしき
フルサトハ ヤマフカキマチ サトサレテ ヒトサジノシオモ タイセツニシキ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.165
【初出】
『短歌』 1978.1 一匙の塩 (13)
03200
突き刺さる言葉なりしが鳥か魚の言ひたることとなして忘れむ
ツキササル コトバナリシガ トリカウオノ イヒタルコトト ナシテワスレム
『野分の章』(牧羊社 1978) p.165
【初出】
『短歌』 1978.1 一匙の塩 (14)
03201
かき立てて日々いそしめば幕明きを待つ久しさに家の成りゆく
カキタテテ ヒビイソシメバ マクアキヲ マツヒサシサニ イエノナリユク
『野分の章』(牧羊社 1978) p.166
【初出】
『短歌』 1978.1 一匙の塩 (15)
03202
逆説ととられしのみに帰り来ぬ平易に言ふを人は好まず
ギャクセツト トラレシノミニ カエリキヌ ヘイイニイフヲ ヒトハコノマズ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.166
【初出】
『短歌』 1978.1 一匙の塩 (16)
03203
半ばにて必ず醒めてどの木にも登り詰めしといふことあらず
ナカバニテ カナラズサメテ ドノキニモ ノボリツメシト イフコトアラズ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.166
【初出】
『短歌』 1978.1 一匙の塩 (17)
03204
地下深く何祝ぎごとのあらむ日か花サフランの湧き出でて咲く
チカフカク ナニホギゴトノ アラムヒカ ハナサフランノ ワキイデテサク
『野分の章』(牧羊社 1978) p.167
【初出】
『短歌』 1978.1 一匙の塩 (18)
03205
告げ得ざることの証しにただ白く月のかたちを塗り残したる
ツゲエザル コトノアカシニ タダシロク ツキノカタチヲ ヌリノコシタル
『野分の章』(牧羊社 1978) p.167
【初出】
『短歌』 1978.1 一匙の塩 (19)