仔犬


03206
鳥かぶとの花買ひ持てば香にたちて毒にあくがれ来し日も久し
トリカブトノ ハナカヒモテバ カニタチテ ドクニアクガレ コシヒモヒサシ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.168
【初出】 『形成』 1978.1 「無題」 (5)


03207
仔犬より長く生くるとも決まりゐず頭を撫でやりしのみに戻り来
コイヌヨリ ナガクイクルトモ キマリヰズ ヅヲナデヤリシ ノミニモドリク

『野分の章』(牧羊社 1978) p.168
【初出】 『形成』 1978.1 「無題」 (3)


03208
山茶花の白冴ゆる日よ雪国にうまれし性を今に保ちて
サザンカノ シロサユルヒヨ ユキグニニ ウマレシサガヲ イマニタモチテ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.169
【初出】 『形成』 1978.1 「無題」 (4)


03209
覚えにくき人の名言ひて海彼なる軍の蜂起をニュースは伝ふ
オボエニクキ ヒトノナイヒテ カイヒナル グンノホウキヲ ニュースハツタフ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.169
【初出】 『形成』 1978.1 「無題」 (2)


03210
灰皿を清めて人を待つごとき思ひにゐたり夕食のあと
ハイザラヲ キヨメテヒトヲ マツゴトキ オモヒニヰタリ ユウショクノアト

『野分の章』(牧羊社 1978) p.169
【初出】 『形成』 1978.1 「無題」 (6)


03211
遡行する時間の如しメトロノームの音のみさせてしばらくをれば
ソコウスル ジカンノゴトシ メトロノームノ オトノミサセテ シバラクヲレバ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.170
【初出】 『形成』 1978.1 「無題」 (1)


03212
くらがりに麻か何かを綯ひゐたりめざめてほめくてのひら二枚
クラガリニ アサカナニカヲ ナヒヰタリ メザメテホメク テノヒラニマイ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.170
【初出】 『VAN』 1977 桜花号 (5)