草食獣


03223
あるまじき一夜一夜を目盛りとしはるかに人を置きて来りぬ
アルマジキ ヒトヨヒトヨヲ メモリトシ ハルカニヒトヲ オキテキタリヌ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.175
【初出】 『短歌新聞』 1978.2 草食獣 (1)


03224
降りやまぬ雪を見をれば逃げ道をふさがれてしまふけものもあらむ
フリヤマヌ ユキヲミヲレバ ニゲミチヲ フサガレテシマフ ケモノモアラム

『野分の章』(牧羊社 1978) p.175
【初出】 『短歌新聞』 1978.2 草食獣 (2)


03225
草食獣の鹿さへ原を追はるると読みてよりはかどる仕事の如し
ソウショクジュウノ シカサヘハラヲ オハルルト ヨミテヨリハカドル シゴトノゴトシ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.176
【初出】 『短歌新聞』 1978.2 草食獣 (3)


03226
砂を嚙む一日なりしが帰る雲往く雲もみな茜に染まる
スナヲカム ヒトヒナリシガ カエルクモ ユククモモミナ アカネニソマル

『野分の章』(牧羊社 1978) p.176
【初出】 『短歌新聞』 1978.2 草食獣 (5)


03227
傍観してをれずに言へばわが肩にかかり来む荷のまざまざと見ゆ
ボウカンシテ ヲレズニイヘバ ワガカタニ カカリコムニノ マザマザトミユ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.176
【初出】 『短歌新聞』 1978.2 草食獣 (4)


03228
駅前の広場にあがる噴水の穂と気づくまに電車は発ちぬ
エキマエノ ヒロバニアガル フンスイノ ホトキヅクマニ デンシャハタチヌ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.177
【初出】 『短歌新聞』 1978.2 草食獣 (8)


03229
新しき家といふとも夜に帰り鍵穴をさぐる思ひかはらぬ
アタラシキ イエトイフトモ ヨニカエリ カギアナヲサグル オモヒカハラヌ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.177
【初出】 『短歌新聞』 1978.2 草食獣 (6)


03230
継ぎ足しの歩廊の下の赤土に霜光る見ゆ日の昇り来て
ツギタシノ ホロウノシタノ アカツチニ シモヒカルミユ ヒノノボリキテ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.177
【初出】 『短歌新聞』 1978.2 草食獣 (7)


03231
山ひだの雪の黄いろにかげる日は寒しと思ふ朝々に見て
ヤマヒダノ ユキノキイロニ カゲルヒハ サムシトオモフ アサアサニミテ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.178
【初出】 『短歌新聞』 1978.2 草食獣 (9)


03232
詫びたくて訪ね来しかと思ひたるわれをやさしむ帰られてのち
ワビタクテ タズネコシカト オモヒタル ワレヲヤサシム カエラレテノチ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.178
【初出】 『短歌新聞』 1978.2 草食獣 (11)


03233
風呂敷の紺にくるまれ鳥籠のかたちのままを運び去られつ
フロシキノ コンニクルマレ トリカゴノ カタチノママヲ ハコビサラレツ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.178
【初出】 『短歌新聞』 1978.2 草食獣 (10)


03234
奪ひしはわれにあらずと言ふのみに夢にも告げず人の名などは
ウバヒシハ ワレニアラズト イフノミニ ユメニモツゲズ ヒトノナナドハ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.179
【初出】 『短歌新聞』 1978.2 草食獣 (13)


03235
クッキーの型抜きをれば花びらも星のかたちも美しからず
クッキーノ カタヌキヲレバ ハナビラモ ホシノカタチモ ウツクシカラズ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.179
【初出】 『短歌新聞』 1978.2 草食獣 (12)


03236
乗り継ぎを時刻表に調べゐたりしが岬々に夜をわが遊ぶ
ノリツギヲ ジコクヒョウニシラベ ヰタリシガ ミサキミサキニ ヨヲワガアソブ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.179
【初出】 『短歌新聞』 1978.2 草食獣 (14)


03237
エッグノッグに酔ひしは昨夜すきとほる元のグラスに戻して蔵ふ
エッグノッグニ ヨヒシハサクヤ スキトホル モトノグラスニ モドシテシマフ

『野分の章』(牧羊社 1978) p.180
【初出】 『短歌新聞』 1978.2 草食獣 (15)