目次
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全短歌(歌集等)
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野分の章
冬の保護色
蘭の鉢を
コーヒーの
坂の上に
葉先のみ
なほざりに
卵黄の
石蕗の
とめどなく
あがなはむ
まじなひに
マホメッドも
いけにへの
身に響き
薄墨いろの
駅前に
踏み絵などに
亡き人の
はじめより
身代りに
保護色の
03261
蘭の鉢を取り込まむとし花よりも葉よりも寒きわれかも知れず
ランノハチヲ トリコマムトシ ハナヨリモ ハヨリモサムキ ワレカモシレズ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.191
【初出】
『形成』 1978.4 冬の保護色 (1)
03262
コーヒーの缶買ひ足して店を出づ冬は入り日の美しき町
コーヒーノ カンカヒタシテ ミセヲイヅ フユハイリヒノ ウツクシキマチ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.191
【初出】
『形成』 1978.4 冬の保護色 (2)
03263
坂の上にバスを待ちゐてゆくりなく雪積む屋根に照る月も見つ
サカノウエニ バスヲマチヰテ ユクリナク ユキツムヤネニ テルツキモミツ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.192
【初出】
『形成』 1978.4 冬の保護色 (3)
03264
葉先のみ青々としてすきとほり茎折れ易し冬の三つ葉は
ハサキノミ アオアオトシテ スキトホリ クキオレヤスシ フユノミツバハ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.192
【初出】
『形成』 1978.4 冬の保護色 (4)
03265
なほざりになすこと多く一人には広き階下を区切りて住まふ
ナホザリニ ナスコトオオク ヒトリニハ ヒロキカイカヲ クギリテスマフ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.192
【初出】
『形成』 1978.4 冬の保護色 (5)
03266
卵黄のかたまるまでの十五分縛らるるごとし見えぬ絆に
ランオウノ カタマルマデノ ジュウゴフン シバラルルゴトシ ミエヌキズナニ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.193
【初出】
『形成』 1978.4 冬の保護色 (6)
03267
石蕗の一輪のみが咲き残り昨日と同じ蜂か来てゐる
ツワブキノ イチリンノミガ サキノコリ キノウトオナジ ハチカキテヰル
『野分の章』(牧羊社 1978) p.193
【初出】
『形成』 1978.4 冬の保護色 (7)
03268
とめどなく流るるわれをくひとむる柵のごときはまさ目に見えず
トメドナク ナガルルワレヲ クヒトムル サクノゴトキハ マサメニミエズ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.193
【初出】
『形成』 1978.4 冬の保護色 (8)
03269
あがなはむ咎もあるべし現し身の膝腫るるまで立ち働きて
アガナハム トガモアルベシ ウツシミノ ヒザハルルマデ タチハタラキテ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.194
【初出】
『形成』 1978.4 冬の保護色 (10)
03270
まじなひに過ぎざらむともマグネットの頸飾りして仕事に向ふ
マジナヒニ スギザラムトモ マグネットノ クビカザリシテ シゴトニムカフ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.194
【初出】
『形成』 1978.4 冬の保護色 (9)
03271
マホメッドも隊商として若き日は小走りに歩く男なりしと伝ふ
マホメッドモ タイショウトシテ ワカキヒハ コバシリニアルクオトコ ナリシトツタフ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.194
【初出】
『形成』 1978.4 冬の保護色 (11)
03272
いけにへの像は醜く彫れりとふすさまじかりし古代を思ふ
イケニヘノ ゾウハミニクク ホレリトフ スサマジカリシ コダイヲオモフ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.195
【初出】
『形成』 1978.4 冬の保護色 (12)
03273
身に響き楔打たるる夢なりき丸太なりしが跡形もなき
ミニヒビキ クサビウタルル ユメナリキ マルタナリシガ アトカタモナキ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.195
【初出】
『形成』 1978.4 冬の保護色 (13)
03274
薄墨いろの雲に戻りて暮れむとしビルは生き生きとともり初めぬ
ウスズミイロノ クモニモドリテ クレムトシ ビルハイキイキト トモリハジメヌ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.195
【初出】
『形成』 1978.4 冬の保護色 (14)
03275
駅前にあつまる車見てあれば流線型とふ言葉も古りぬ
エキマエニ アツマルクルマ ミテアレバ リュウセンケイトフ コトバモフリヌ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.196
【初出】
『形成』 1978.4 冬の保護色 (15)
03276
踏み絵などにいつかは必ず試されむわれと思へば寒し未来も
フミエナドニ イツカハカナラズ タメサレム ワレトオモヘバ サムシミライモ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.196
【初出】
『形成』 1978.4 冬の保護色 (16)
03277
亡き人のいまさばと頻り言ひ呉るる新しくなりし家を訪ひ来て
ナキヒトノ イマサバトシキリ イヒクルル アタラシクナリシ イエヲトヒキテ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.196
【初出】
『形成』 1978.4 冬の保護色 (17)
03278
はじめよりかうなると決りゐしごとしひとり近づく父のよはひに
ハジメヨリ カウナルトキマリ ヰシゴトシ ヒトリチカヅク チチノヨハヒニ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.197
【初出】
『形成』 1978.4 冬の保護色 (18)
03279
身代りに枯れゆく蘭と思ふまで蝶のかたちの花びら垂りぬ
ミガワリニ カレユクラント オモフマデ チョウノカタチノ ハナビラタリヌ
『野分の章』(牧羊社 1978) p.197
【初出】
『形成』 1978.4 冬の保護色 (19)
03280
保護色のごとくに黒のセーターをまとひて過ぎて今日は立春
ホゴショクノ ゴトクニクロノ セーターヲ マトヒテスギテ キョウハリッシュン
『野分の章』(牧羊社 1978) p.197
【初出】
『形成』 1978.4 冬の保護色 (20)