転生


03286
滅多には死ねぬ思ひす尾を垂れて歩むけものを真横に見れば
メッタニハ シネヌオモヒス オヲタレテ アユムケモノヲ マヨコニミレバ

『風水』(沖積舎 1986) p.10
【初出】 『短歌』 1979.2 転生 (1)


03287
届きたる封書のうしろに書かれゐてやさし昔のままの町の名
トドキタル フウショノウシロニ カカレヰテ ヤサシムカシノ ママノマチノナ

『風水』(沖積舎 1986) p.10
【初出】 『短歌』 1979.2 転生 (2)


03288
折れさうな膝に繃帯を巻きやりし人形などの如何になりけむ
オレサウナ ヒザニホウタイヲ マキヤリシ ニンギョウナドノ イカニナリケム

『風水』(沖積舎 1986) p.11
【初出】 『短歌』 1979.2 転生 (3)


03289
影踏みのごとく歩みてそれ得ぬに護送車にたれか運ばれゆきぬ
カゲフミノ ゴトクアユミテ ソレエヌニ ゴソウシャニタレカ ハコバレユキヌ

『風水』(沖積舎 1986) p.11
【初出】 『短歌』 1979.2 転生 (4)


03290
いつとなく失ひてをり反動をつけて駆け出すよろこびなどは
イツトナク ウシナヒテヲリ ハンドウヲ ツケテカケダス ヨロコビナドハ

『風水』(沖積舎 1986) p.11
【初出】 『短歌』 1979.2 転生 (5)


03291
着て出づるものに惑ひて行けざりし夜会のことも早く忘れむ
キテイヅル モノニマドヒテ ユケザリシ ヤカイノコトモ ハヤクワスレム

『風水』(沖積舎 1986) p.12
【初出】 『短歌』 1979.2 転生 (6)


03292
ひとりゆゑあわてずにすむと気づきたり電灯の地震に揺れゐる見つつ
ヒトリユヱ アワテズニスムト キヅキタリ デントウノナヰニ ユレヰルミツツ

『風水』(沖積舎 1986) p.12
【初出】 『短歌』 1979.2 転生 (7)


03293
妹といふあいらしきもの日も夜もわがかたはらにゐたる日ありき
イモウトトイフ アイラシキモノ ヒモヨルモ ワガカタハラニ ヰタルヒアリキ

『風水』(沖積舎 1986) p.12
【初出】 『短歌』 1979.2 転生 (8)


03294
洋傘を傾けしときガラス戸にまともに映る施主われの顔
カウモリヲ カタムケシトキ ガラスドニ マトモニウツル セシユワレノカオ

『風水』(沖積舎 1986) p.13
【初出】 『短歌』 1979.2 転生 (9)


03295
口もとにほくろのありしことなどの思ひ出されて忌の夜をゐる
クチモトニ ホクロノアリシ コトナドノ オモヒダサレテ キノヨルヲヰル

『風水』(沖積舎 1986) p.13
【初出】 『短歌』 1979.2 転生 (10)


03296
辛うじて大波をくぐり抜け得たるわが思ひなど人に知られず
カロウジテ オオナミヲクグリ ヌケエタル ワガオモヒナド ヒトニシラレズ

『風水』(沖積舎 1986) p.13
【初出】 『短歌』 1979.2 転生 (11)


03297
山茶花の色をまじへて地に敷くは吐き散らされし言葉のごとき
サザンカノ イロヲマジヘテ チニシクハ ハキチラサレシ コトバノゴトキ

『風水』(沖積舎 1986) p.14
【初出】 『短歌』 1979.2 転生 (12)


03298
菱型になりて定まるときのありプラモデルの金魚宙に垂りゐて
ヒシガタニ ナリテサダマル トキノアリ プラモデルノキンギョ チュウニタリヰテ

『風水』(沖積舎 1986) p.14
【初出】 『短歌』 1979.2 転生 (13)


03299
終業に未だ間のある午後三時濁音ばかり押し寄せて来る
シュウギョウニ イマダマノアル ゴゴサンジ ダクオンバカリ オシヨセテクル

『風水』(沖積舎 1986) p.14
【初出】 『短歌』 1979.2 転生 (14)


03300
ふるびたる思想をわれの持ちてゐむ俸給などとはこのごろ言はず
フルビタル シソウヲワレノ モチテヰム ホウキュウナドトハ コノゴロイハズ

『風水』(沖積舎 1986) p.15
【初出】 『短歌』 1979.2 転生 (15)


03301
引き潮に裾あらはなる岩一つ見てはならざる思ひに過ぎつ
ヒキシオニ スソアラハナル イワヒトツ ミテハナラザル オモヒニスギツ

『風水』(沖積舎 1986) p.15
【初出】 『短歌』 1979.2 転生 (16)


03302
落ち葉舞ふ広場のいづこをりをりに喇叭を鳴らす商人のゐる
オチバマフ ヒロバノイヅコ ヲリヲリニ ラッパヲナラス ショウニンノヰル

『風水』(沖積舎 1986) p.15
【初出】 『短歌』 1979.2 転生 (17)


03303
鏡にて監視されつつ働くと知れる少女を慰めかねつ
カガミニテ カンシサレツツ ハタラクト シレルオトメヲ ナグサメカネツ

『風水』(沖積舎 1986) p.16
【初出】 『短歌』 1979.2 転生 (18)


03304
居合はせて見てしまひたる鬼の顔眠らむきはにまた動き出す
イアハセテ ミテシマヒタル オニノカオ ネムラムキハニ マタウゴキダス

『風水』(沖積舎 1986) p.16
【初出】 『短歌』 1979.2 転生 (19)


03305
死者たちの寄りて住む国ありといふ必ずしもわれの信じてをらず
シシャタチノ ヨリテスムクニ アリトイフ カナラズシモワレノ シンジテヲラズ

『風水』(沖積舎 1986) p.16
【初出】 『短歌』 1979.2 転生 (20)


03306
年の瀬にうからの墓を洗ひに来ぬ詣でてやらむ生くる限りは
トシノセニ ウカラノハカヲ アラヒニキヌ モウデテヤラム イクルカギリハ

『風水』(沖積舎 1986) p.17
【初出】 『短歌』 1979.2 転生 (21)