目次
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全短歌(歌集等)
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風水
首の無い絵
すきとほる
敵無くて
屋上に
シャッターの
責められて
なしがたき
知らぬまに
わが顔も
人数の
力学の
なさざりし
起き出でて
けはひなく
仏頭の
水のほとりに
救はれし
堪へがたき
石などを
寝返ると
方角の
一本の
03438
すきとほるガラス見をれば裏と表に分れしのちの遠き月日よ
スキトホル ガラスミヲレバ ウラトオモテニ ワカレシノチノ トオキツキヒヨ
『風水』(沖積舎 1986) p.65
【初出】
『短歌』 1979.5 首のない絵 (1)
03439
敵無くて味方のあらむ筈なけれ再びかかるきれぎれの虹
テキナクテ ミカタノアラム ハズナケレ フタタビカカル キレギレノニジ
『風水』(沖積舎 1986) p.66
【初出】
『短歌』 1979.5 首のない絵 (2)
03440
屋上にのぼりて何をなす人か三人をれば心騒がず
オクジョウニ ノボリテナニヲ ナスヒトカ サンニンヲレバ ココロサワガズ
『風水』(沖積舎 1986) p.66
【初出】
『短歌』 1979.5 首のない絵 (3)
03441
シャッターのあがる前よりわれの目にさだかに見えてゐたる壺あり
シャッターノ アガルマエヨリ ワレノメニ サダカニミエテ ヰタルツボアリ
『風水』(沖積舎 1986) p.66
【初出】
『短歌』 1979.5 首のない絵 (4)
03442
責められて正すべき身に何あらむ首の無い絵に人の集まる
セメラレテ タダスベキミニ ナニアラム クビノナイエニ ヒトノアツマル
『風水』(沖積舎 1986) p.67
【初出】
『短歌』 1979.5 首のない絵 (5)
03443
なしがたき旅を思へばゆるやかにくだる煉瓦の道など見え来
ナシガタキ タビヲオモヘバ ユルヤカニ クダルレンガノ ミチナドミエク
『風水』(沖積舎 1986) p.67
【初出】
『短歌』 1979.5 首のない絵 (6)
03444
知らぬまに免れ得たる罪あらむ棄つべき子さへ持たざりしかば
シラヌマニ マヌガレエタル ツミアラム スツベキコサヘ モタザリシカバ
『風水』(沖積舎 1986) p.67
【初出】
『短歌』 1979.5 首のない絵 (7)
03445
わが顔も仮面の一つ能面の部屋を思へばうす明りせる
ワガカオモ カメンノヒトツ ノウメンノ ヘヤヲオモヘバ ウスアカリセル
『風水』(沖積舎 1986) p.68
【初出】
『短歌』 1979.5 首のない絵 (8)
03446
人数の減りて夜勤に入らむとし書庫の暗さの気になりはじむ
ニンズウノ ヘリテヤキンニ イラムトシ ショコノクラサノ キニナリハジム
『風水』(沖積舎 1986) p.68
【初出】
『短歌』 1979.5 首のない絵 (9)
03447
力学の当然として倒れたる書架といへどもまた引き起こす
リキガクノ トウゼントシテ タオレタル ショカトイヘドモ マタヒキオコス
『風水』(沖積舎 1986) p.68
【初出】
『短歌』 1979.5 首のない絵 (10)
03448
なさざりし見ざりし咎は深からむなしたる罪の多く問はるる
ナサザリシ ミザリシトガハ フカカラム ナシタルツミノ オオクトハルル
『風水』(沖積舎 1986) p.69
【初出】
『短歌』 1979.5 首のない絵 (11)
03449
起き出でて一時間がほどのたゆたひにゆだぬることも休みの日ゆゑ
オキイデテ イチジカンガホドノ タユタヒニ ユダヌルコトモ ヤスミノヒユヱ
『風水』(沖積舎 1986) p.69
【初出】
『短歌』 1979.5 首のない絵 (12)
03450
けはひなく咲く水中花着色の黄いろのままのはなびらを解く
ケハヒナク サクスイチュウカ チャクショクノ キイロノママノ ハナビラヲトク
『風水』(沖積舎 1986) p.69
【初出】
『短歌』 1979.5 首のない絵 (13)
03451
仏頭の眉さながらに描きつつ内なる修羅のうとましき日よ
ブットウノ マユサナガラニ エガキツツ ウチナルシュラノ ウトマシキヒヨ
『風水』(沖積舎 1986) p.70
【初出】
『短歌』 1979.5 首のない絵 (14)
03452
水のほとりに出づる理由など明かされて狐火もいつか見られずなりぬ
ミズノホトリニ イヅルワケナド アカサレテ キツネビモイツカ ミラレズナリヌ
『風水』(沖積舎 1986) p.70
【初出】
『短歌』 1979.5 首のない絵 (15)
03453
救はれしことを負ひめにながらへて瀬音は耳を離れずといふ
スクハレシ コトヲオヒメニ ナガラヘテ セオトハミミヲ ハナレズトイフ
『風水』(沖積舎 1986) p.70
【初出】
『短歌』 1979.5 首のない絵 (16)
03454
堪へがたき思ひなりしが手袋をはめて凶器を持つにもあらず
タヘガタキ オモヒナリシガ テブクロヲ ハメテキョウキヲ モツニモアラズ
『風水』(沖積舎 1986) p.71
【初出】
『短歌』 1979.5 首のない絵 (17)
03455
石などを落とすごとくに思ひきり突き落としたき願ひと言はむ
イシナドヲ オトスゴトクニ オモヒキリ ツキオトシタキ ネガヒトイハム
『風水』(沖積舎 1986) p.71
【初出】
『短歌』 1979.5 首のない絵 (18)
03456
寝返るといふことのあり寝返らば別の世界の見え来るらむか
ネガエルト イフコトノアリ ネガエラバ ベツノセカイノ ミエクルラムカ
『風水』(沖積舎 1986) p.71
【初出】
『短歌』 1979.5 首のない絵 (19)
03457
方角のなき闇のなか昼間見し白梅ならむ花明りする
ホウガクノ ナキヤミノナカ ヒルマミシ シラウメナラム ハナアカリスル
『風水』(沖積舎 1986) p.72
【初出】
『短歌』 1979.5 首のない絵 (20)
03458
一本の木となりてあれゆさぶりて過ぎにしものを風と呼ぶべく
イッポンノ キトナリテアレ ユサブリテ スギニシモノヲ カゼトヨブベク
『風水』(沖積舎 1986) p.72
【初出】
『短歌』 1979.5 首のない絵 (21)