鏡一枚


03459
唇をかたどりてゐて目の前の鏡一枚さへままならぬ
クチビルヲ カタドリテヰテ メノマエノ カガミイチマイ サヘママナラヌ

『風水』(沖積舎 1986) p.73
【初出】 『短歌研究』 1979.3 鏡一枚 (1)


03460
カトレアの花にあづけてゐたる目を取り戻さむにしばし間のあり
カトレアノ ハナニアヅケテ ヰタルメヲ トリモドサムニ シバシマノアリ

『風水』(沖積舎 1986) p.73
【初出】 『短歌研究』 1979.3 鏡一枚 (2)


03461
食卓をかこみたる人もちりぢりに古りしライターの舟型を置く
ショクタクヲ カコミタルヒトモ チリヂリニ フリシライターノ フナガタヲオク

『風水』(沖積舎 1986) p.74
【初出】 『短歌研究』 1979.3 鏡一枚 (3)


03462
野に伏せて艦載機の過ぐるを待ちにしが草合歓などの今も咲けるや
ノニフセテ カンサイキノスグルヲ マチニシガ クサネムナドノ イマモサケルヤ

『風水』(沖積舎 1986) p.74
【初出】 『形成』 1978.12 「無題」 (6) / 『短歌研究』 1979.3 鏡一枚 (4)


03463
うつつなく歩みてゐしが尖塔の見え来て不意にわれに家あり
ウツツナク アユミテヰシガ セントウノ ミエキテフイニ ワレニイエアリ

『風水』(沖積舎 1986) p.74
【初出】 『短歌研究』 1979.3 鏡一枚 (5)


03464
いにしへのをみならも経しかなしみか朝の来ぬ夜はあらずと言へり
イニシヘノ ヲミナラモヘシ カナシミカ アサノコヌヨハ アラズトイヘリ

『風水』(沖積舎 1986) p.75
【初出】 『短歌研究』 1979.3 鏡一枚 (6)


03465
選ぶことは多く捨つること捨てかねて選びあぐねて一生をあらむ
エラブコトハ オオクスツルコト ステカネテ エラビアグネテ ヒトヨヲアラム

『風水』(沖積舎 1986) p.75
【初出】 『短歌研究』 1979.3 鏡一枚 (7)