雪の一夜

別れたる降りやまぬエアカーテンの思ひ切り落ちあひて地下道にクイーンの物憂くて

03502
別れたる死にたる人らみな若くをりをりの夢に入り来るはよき
ワカレタル　シニタルヒトラ　ミナワカク　ヲリヲリノユメニ　イリクルハヨキ

『風水』(沖積舎　1986)　p.91
【初出】　『形成』　1979.4　「無題」　(２)


03503
降りやまぬ雪に思へば運命を分けたるごとき一夜さありき
フリヤマヌ　ユキニオモヘバ　ウンメイヲ　ワケタルゴトキ　ヒトヨサアリキ

『風水』(沖積舎　1986)　p.91
【初出】　『形成』　1979.4　「無題」　(３)


03504
エアカーテンの遮る外気いくばくか八時間労働われに始まる
エアカーテンノ　サエギルガイキ　イクバクカ　ハチジカンロウドウ　ワレニハジマル

『風水』(沖積舎　1986)　p.92
【初出】　『形成』　1979.4　「無題」　(４)


03505
思ひ切りそれてゆきたき衝動を抑えつつゐて人に知られず
オモヒキリ　ソレテユキタキ　ショウドウヲ　オサエツツヰテ　ヒトニシラレズ

『風水』(沖積舎　1986)　p.92
【初出】　『形成』　1979.4　「無題」　(５)


03506
落ちあひてビルの狭間を歩まむにわが思ふ東京はいつの夜も雨
オチアヒテ　ビルノハザマヲ　アユマムニ　ワガオモフトウキョウハ　イツノヨモアメ

『風水』(沖積舎　1986)　p.92


03507
地下道に雨を避けつつ歩みゐて言葉少なし伴ふ人も
チカドウニ　アメヲサケツツ　アユミヰテ　コトバスクナシ　トモナフヒトモ

『風水』(沖積舎　1986)　p.93
【初出】　『形成』　1979.4　「無題」　(６)


03508
クイーンの切手貼られて届く手紙雪の故国を恋ふると告げて
クイーンノ　キッテハラレテ　トドクテガミ　ユキノココクヲ　コフルトツゲテ

『風水』(沖積舎　1986)　p.93
【初出】　『形成』　1979.4　「無題」　(１)


03509
物憂くて幾日ありけむ今宵よりは巻き込まれゆかむ仕事の渦に
モノウクテ　イクカアリケム　コヨイヨリハ　マキコマレユカム　シゴトノウズニ

『風水』(沖積舎　1986)　p.93
【初出】　『形成』　1979.4　「無題」　(７)