目次
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全短歌(歌集等)
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風水
峠のごとき
降りやまぬ
ゆるやかに
裏道の
予告なき
バスに行き
善悪の
電圧の
灯を消して
エンジンを
正面に
雨のあとの
階段の
人だのみの
いくたびも
目の前に
一人前の
駆け戻る
年を経し
ばらばらの
あらかじめ
見のがして
売られゐる
白粉花の
琴を弾く
畳の上に
口をあく
いつとなく
列車よりも
出奔の
左右より
ラベンダーより
03555
降りやまぬ雨を見をればわが茎の芦より青く立つことのあり
フリヤマヌ アメヲミヲレバ ワガクキノ アシヨリアオク タツコトノアリ
『風水』(沖積舎 1986) p.111
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (1)
03556
ゆるやかにレール分れて草のなか穀倉地帯の名も古りむとす
ユルヤカニ レールワカレテ クサノナカ コクソウチタイノ ナモフリムトス
『風水』(沖積舎 1986) p.111
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (2)
03557
裏道の昼のしづけさローラーカナリアの声などこのごろ聞かず
ウラミチノ ヒルノシヅケサ ローラーカナリア ノコエナド コノゴロキカズ
『風水』(沖積舎 1986) p.112
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (3)
03558
予告なきもののみにして目の前のマンホールから人の出でくる
ヨコクナキ モノノミニシテ メノマエノ マンホールカラ ヒトノイデクル
『風水』(沖積舎 1986) p.112
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (4)
03559
バスに行き遠見となればかたまりてあはきみどりをなす梨の花
バスニユキ トホミトナレバ カタマリテ アハキミドリヲ ナスナシノハナ
『風水』(沖積舎 1986) p.112
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (5)
03560
善悪のかなたのことと慰めて慰めきれず人の嘆きは
ゼンアクノ カナタノコトト ナグサメテ ナグサメキレズ ヒトノナゲキハ
『風水』(沖積舎 1986) p.113
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (6)
03561
電圧のかはるときのまチアノーゼ色に映れる俳優の口
デンアツノ カハルトキノマ チアノーゼ イロニウツレル ハイユウノクチ
『風水』(沖積舎 1986) p.113
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (7)
03562
灯を消してみひらきをれば一定の量の闇にて濃くなるばかり
ヒヲケシテ ミヒラキヲレバ イッテイノ リョウノヤミニテ コクナルバカリ
『風水』(沖積舎 1986) p.113
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (8)
03563
エンジンをかけて夜すがら待ちゐたる船も何をかのせて発ちたり
エンジンヲ カケテヨスガラ マチヰタル フネモナニヲカ ノセテタチタリ
『風水』(沖積舎 1986) p.114
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (9)
03564
正面に見にし魚の顔一つ最前列の顔とかさなる
ショウメンニ ミニシサカナノ カオヒトツ サイゼンレツノ カオトカサナル
『風水』(沖積舎 1986) p.114
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (10)
03565
雨のあとの街に湧きたつささめきはわがゐる五階の窓にも届く
アメノアトノ マチニワキタツ ササメキハ ワガヰルゴカイノ マドニモトドク
『風水』(沖積舎 1986) p.114
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (11)
03566
階段のひとところ陽の差してゐて少女ら脛を光らせて過ぐ
カイダンノ ヒトトコロヒノ サシテヰテ オトメラハギヲ ヒカラセテスグ
『風水』(沖積舎 1986) p.115
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (12)
03567
人だのみの多くなりつつ目に見えて諦め易くわれは働く
ヒトダノミノ オオクナリツツ メニミエテ アキラメヤスク ワレハハタラク
『風水』(沖積舎 1986) p.115
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (13)
03568
いくたびも仕事を替へていとまある職場といふは得ず終らむか
イクタビモ シゴトヲカヘテ イトマアル ショクバトイフハ エズオワラムカ
『風水』(沖積舎 1986) p.115
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (14)
03569
目の前に紙切る見れば左利きと知らで過ぎたり十日余りを
メノマエニ カミキルミレバ ヒダリキキト シラデスギタリ トオカアマリヲ
『風水』(沖積舎 1986) p.116
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (15)
03570
一人前の労働力に還元し励む日萎ゆる日ありて過ぎゆく
イチニンマエノ ロウドウリョクニ カンゲンシ ハゲムヒナユルヒ アリテスギユク
『風水』(沖積舎 1986) p.116
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (16)
03571
駆け戻る思ひに夜々を帰り来て机に向ふもあと幾年か
カケモドル オモヒニヨヨヲ カエリキテ ツクエニムカフモ アトイクトセカ
『風水』(沖積舎 1986) p.116
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (17)
03572
年を経し死者の一人は幾たびもわが夢に来て死にて見するも
トシヲヘシ シシャノヒトリハ イクタビモ ワガユメニキテ シニテミスルモ
『風水』(沖積舎 1986) p.117
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (18)
03573
ばらばらのクッキーをホイルに包みゐて心一つをまとめむに似る
バラバラノ クッキーヲホイルニ ツツミヰテ ココロヒトツヲ マトメムニニル
『風水』(沖積舎 1986) p.117
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (19)
03574
あらかじめ人の寿命は定まると聞き来て歩度のゆるむ思ひす
アラカジメ ヒトノジュミョウハ サダマルト キキキテホドノ ユルムオモヒス
『風水』(沖積舎 1986) p.117
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (20)
03575
見のがしてゐることあらむセロリーの鮮度などにわがかかづらふ間に
ミノガシテ ヰルコトアラム セロリーノ センドナドニワガ カカヅラフマニ
『風水』(沖積舎 1986) p.118
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (21)
03576
売られゐるもののみに足る生活と思ひてをればバスの近づく
ウラレヰル モノノミニタル セイカツト オモヒテヲレバ バスノチカヅク
『風水』(沖積舎 1986) p.118
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (22)
03577
白粉花の折れ易き茎ほきほきと節から折りて児らのあそべる
オシロイバナノ オレヤスキクキ ホキホキト フシカラオリテ コラノアソベル
『風水』(沖積舎 1986) p.118
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (23)
03578
琴を弾く埴輪見をればわが指に届かぬ弦のあるごとき日よ
コトヲヒク ハニワミヲレバ ワガユビニ トドカヌゲンノ アルゴトキヒヨ
『風水』(沖積舎 1986) p.119
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (24)
03579
畳の上に大き鋏を見て寝しが朝起き出でて何事もなし
タタミノウエニ オオキハサミヲ ミテネシガ アサオキイデテ ナニゴトモナシ
『風水』(沖積舎 1986) p.119
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (25)
03580
口をあく扇形グラフ馬鈴薯をむくことなどもなくて過ぎゆく
クチヲアク センケイグラフ バレイショヲ ムクコトナドモ ナクテスギユク
『風水』(沖積舎 1986) p.119
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (26)
03581
いつとなく死せる人らを責むるまでさかのぼりゆくわれの思ひは
イツトナク シセルヒトラヲ セムルマデ サカノボリユク ワレノオモヒハ
『風水』(沖積舎 1986) p.120
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (27)
03582
列車よりも心馳せにき西へ向ふブルートレインもなくなるといふ
レッシャヨリモ ココロハセニキ ニシヘムカフ ブルートレインモ ナクナルトイフ
『風水』(沖積舎 1986) p.120
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (28)
03583
出奔の夜なりき次々に街灯に照らし出されて駅へ急ぎき
シュッポンノ ヨナリキツギツギニ ガイトウニ テラシダサレテ エキヘイソギキ
『風水』(沖積舎 1986) p.120
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (29)
03584
左右より木立の欝は迫り来てまたさしかかる峠のごとき
サユウヨリ コダチノウツハ セマリキテ マタサシカカル トウゲノゴトキ
『風水』(沖積舎 1986) p.121
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (31)
03585
ラベンダーより色濃き花と見てありて詳しく知れることも少なし
ラベンダーヨリ イロコキハナト ミテアリテ クワシクシレル コトモスクナシ
『風水』(沖積舎 1986) p.121
【初出】
『短歌』 1979.9 峠のごとき (30)