目次
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全短歌(歌集等)
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風水
夜の檻
光りつつ
両手もて
一枚の
雨の日の
選びがたき
言葉を持つ
急行の
掃きよせて
何により
あくる日の
眠る前の
次々に
メラミン樹脂
ルワンダの
ゆく末に
しめ縄の
山の端に
おもむろに
骨格の
抜けおちて
あきらめて
この秋の
葉がくれに
年を経て
鹿の角の
感情の
きれぎれに
堕ちてゆく
てのひらに
外套に
夕刊を
03614
光りつつへだてあひつつ花びらは雲の鱗のやうに降りくる
ヒカリツツ ヘダテアヒツツ ハナビラハ クモノウロコノ ヤウニフリクル
『風水』(沖積舎 1986) p.133
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (1)
03615
両手もてふさぎし耳にひとしきり遠き故郷の吹雪の声す
リョウテモテ フサギシミミニ ヒトシキリ トオキコキヨウノ フブキノコエス
『風水』(沖積舎 1986) p.134
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (2)
03616
一枚の皮膚と思ふに目の前を黄の色に染めて風の吹く日よ
イチマイノ ヒフトオモフニ メノマエヲ キノイロニソメテ カゼノフクヒヨ
『風水』(沖積舎 1986) p.134
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (3)
03617
雨の日の津和野はわれの思ふのみ滴を切りて傘の始末す
アメノヒノ ツワノハワレノ オモフノミ シズクヲキリテ カサノシマツス
『風水』(沖積舎 1986) p.134
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (4)
03618
選びがたき思ひにをればかかはりもあらぬ埴輪の筒などが見ゆ
エラビガタキ オモヒニヲレバ カカハリモ アラヌハニワノ ツツナドガミユ
『風水』(沖積舎 1986) p.135
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (5)
03619
言葉を持つ不幸に思ひ至る日をはればれと舞ふ銀杏の落ち葉
コトバヲモツ フコウニオモヒ イタルヒヲ ハレバレトマフ イチョウノオチバ
『風水』(沖積舎 1986) p.135
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (6)
03620
急行のとまらぬ駅と寂しみて待つ間に逢ふ魔が時も過ぎなむ
キュウコウノ トマラヌエキト サビシミテ マツマニアフマガ トキモスギナム
『風水』(沖積舎 1986) p.135
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (7)
03621
掃きよせて砂のまじれる葉を燃せば森の匂ひをたててくすぶる
ハキヨセテ スナノマジレル ハヲモセバ モリノニオヒヲ タテテクスブル
『風水』(沖積舎 1986) p.136
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (8)
03622
何により山鳩などに生まれしや問ひやまず啼く一羽木にゐる
ナニニヨリ ヤマバトナドニ ウマレシヤ トヒヤマズナク イチワキニヰル
『風水』(沖積舎 1986) p.136
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (9)
03623
あくる日の仕事のことをわれの言ひこころさもしくなりて別れき
アクルヒノ シゴトノコトヲ ワレノイヒ ココロサモシク ナリテワカレキ
『風水』(沖積舎 1986) p.136
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (10)
03624
眠る前のやさしさのなか青蚊帳の麻の匂ひを久しく嗅がず
ネムルマエノ ヤサシサノナカ アオガヤノ アサノニオヒヲ ヒサシクカガズ
『風水』(沖積舎 1986) p.137
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (11)
03625
次々に疑ひばかり湧く日にて人の掛けおくコートが赤し
ツギツギニ ウタガヒバカリ ワクヒニテ ヒトノカケオク コートガアカシ
『風水』(沖積舎 1986) p.137
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (12)
03626
メラミン樹脂塗られて固き机とぞ手を置けば手のかたちに曇る
メラミンジュシ ヌラレテカタキ ツクエトゾ テヲオケバテノ カタチニクモル
『風水』(沖積舎 1986) p.137
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (13)
03627
ルワンダのコーヒー匂ふゐながらにたのしむことの限界として
ルワンダノ コーヒーニオフ ヰナガラニ タノシムコトノ ゲンカイトシテ
『風水』(沖積舎 1986) p.138
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (14)
03628
ゆく末に賑はひあれよ群書類従二十四巻今日は届きぬ
ユクスエニ ニギハヒアレヨ グンショルイジュウ ニジュウヨンカン キョウハトドキヌ
『風水』(沖積舎 1986) p.138
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (15)
03629
しめ縄の張られてゐたる片隅の遠き記憶のなかのくらがり
シメナワノ ハラレテヰタル カタスミノ トオキキオクノ ナカノクラガリ
『風水』(沖積舎 1986) p.138
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (16)
03630
山の端に今し浮く雲平面に叩きつけられし如きかたちす
ヤマノハニ イマシウククモ ヘイメンニ タタキツケラレシ ゴトキカタチス
『風水』(沖積舎 1986) p.139
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (17)
03631
おもむろに芯に近づくけはひにも身動きならぬ果実かわれは
オモムロニ シンニチカヅク ケハヒニモ ミウゴキナラヌ カジツカワレハ
『風水』(沖積舎 1986) p.139
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (18)
03632
骨格の模型垂りゐし標本室夢に見て今も入りてゆけず
コッカクノ モケイタリヰシ ヒョウホンシツ ユメニミテイマモ ハイリテユケズ
『風水』(沖積舎 1986) p.139
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (19)
03633
抜けおちて隙間だらけの羽根を持ち谷の一つも越え得るらむか
ヌケオチテ スキマダラケノ ハネヲモチ タニノヒトツモ コエウルラムカ
『風水』(沖積舎 1986) p.140
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (20)
03634
あきらめて忘れて今は眠らむに重たき腕を両脇に置く
アキラメテ ワスレテイマハ ネムラムニ オモタキウデヲ リョウワキニオク
『風水』(沖積舎 1986) p.140
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (21)
03635
この秋の終りの蜆蝶ならむ草のもみぢにまぎれつつ飛ぶ
コノアキノ オワリノシジミ チョウナラム クサノモミヂニ マギレツツトブ
『風水』(沖積舎 1986) p.140
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (22)
03636
葉がくれにくぐもり咲ける枇杷の花思ひ自虐に似つつ仰ぎぬ
ハガクレニ クグモリサケル ビワノハナ オモヒジギャクニ ニツツアオギヌ
『風水』(沖積舎 1986) p.141
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (23)
03637
年を経て狭められたる庭園にしろじろと立つ噴水の穂は
トシヲヘテ セバメラレタル テイエンニ シロジロトタツ フンスイノホハ
『風水』(沖積舎 1986) p.141
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (24)
03638
鹿の角のやうに開きし枯れ枝に間違ひならむ黄の花の咲く
シカノツノノ ヤウニヒラキシ カレエダニ マチガヒナラム キノハナノサク
『風水』(沖積舎 1986) p.141
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (25)
03639
感情のひろがる幅の見えやまず船が分けゆく水脈を見をれば
カンジョウノ ヒロガルハバノ ミエヤマズ フネガワケユク ミヲヲミヲレバ
『風水』(沖積舎 1986) p.142
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (26)
03640
きれぎれになりても生きむなど思ひ眠りしのちはゆくへ知られず
キレギレニ ナリテモイキム ナドオモヒ ネムリシノチハ ユクヘシラレズ
『風水』(沖積舎 1986) p.142
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (27)
03641
堕ちてゆくこころまざまざ見し夢に憎みゐたりき人の背中を
オチテユク ココロマザマザ ミシユメニ ニクミヰタリキ ヒトノセナカヲ
『風水』(沖積舎 1986) p.142
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (28)
03642
てのひらに残る記憶よ霧の夜の石のてすりのつめたかりけり
テノヒラニ ノコルキオクヨ キリノヨノ イシノテスリノ ツメタカリケリ
『風水』(沖積舎 1986) p.143
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (29)
03643
外套に頸をうづめて人波にまぎれゆきたる咎びともゐむ
ガイトウニ クビヲウヅメテ ヒトナミニ マギレユキタル トガビトモヰム
『風水』(沖積舎 1986) p.143
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (30)
03644
夕刊を取りこみドアの鍵一つかけてしまへば夜の檻のなか
ユウカンヲ トリコミドアノ カギヒトツ カケテシマヘバ ヨノオリノナカ
『風水』(沖積舎 1986) p.143
【初出】
『短歌』 1980.1 森の匂ひ (31)