夜の雨


03701
俯瞰して見ゆる範囲に黄に塗られ何を限れるひとすぢの柵
フカンシテ ミユルハンイニ キニヌラレ ナニヲカギレル ヒトスヂノサク

『風水』(沖積舎 1986) p.167
【初出】 『形成』 1980.4 「無題」 (1)


03702
待ち長き思ひの如し花つけて宙にしづまりがたき穂先は
マチナガキ オモヒノゴトシ ハナツケテ チュウニシヅマリ ガタキホサキハ

『風水』(沖積舎 1986) p.167
【初出】 『形成』 1980.4 「無題」 (2)


03703
生きものの何かがゐたる気配して筧の水のうすく濁れる
イキモノノ ナニカガヰタル ケハイシテ カケヒノミズノ ウスクニゴレル

『風水』(沖積舎 1986) p.168
【初出】 『形成』 1980.4 「無題」 (3)


03704
ひとすぢの水路に隔てられてゐる町が見ゆ階を降り来ても見ゆ
ヒトスヂノ スイロニヘダテ ラレテヰル マチガミユカイヲ オリキテモミユ

『風水』(沖積舎 1986) p.168
【初出】 『形成』 1980.4 「無題」 (4)


03705
角印を一つ押すにも平均に力の入ることは少なし
カクインヲ ヒトツオスニモ ヘイキンニ チカラノハイル コトハスクナシ

『風水』(沖積舎 1986) p.168
【初出】 『形成』 1980.4 「無題」 (5)


03706
いつとなくギプスに固められきたる心のごとし長く勤めて
イツトナク ギプスニカタメ ラレキタル ココロノゴトシ ナガクツトメテ

『風水』(沖積舎 1986) p.169
【初出】 『形成』 1980.4 「無題」 (6)


03707
落ち葉焚く火に近づきて見てあれば炎は風に片寄りて立つ
オチバタク ヒニチカヅキテ ミテアレバ ホノオハカゼニ カタヨリテタツ

『風水』(沖積舎 1986) p.169
【初出】 『形成』 1980.4 「無題」 (7)


03708
枯れ草にはげしく音をたてて降りやがて静かな夜の雨となる
カレクサニ ハゲシクオトヲ タテテフリ ヤガテシズカナ ヨノアメトナル

『風水』(沖積舎 1986) p.169