目次
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全短歌(歌集等)
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風水
岸辺かここは
大方は
葉がくれに
着替へして
コンサートの
何をして
山越えて
くぐもれる
男言葉
まる見えに
いきいきと
立ち退きの
母ならで
遠き日に
針金の
をりをりに
新幹線は
盤をかこみ
三十年
予測して
トルソーの
計算機の
職場は地獄
つながねば
ひさびさの
隠し絵の
飲み慣れし
振り向けば
地球ごと
跳びはねて
どのやうに
骨として
03716
大方は忘れて過ぐる死者にしてかすかにわれを縛ることあり
オオカタハ ワスレテスグル シシャニシテ カスカニワレヲ シバルコトアリ
『風水』(沖積舎 1986) p.173
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (1)
03717
葉がくれに朴は花咲きひとすぢの水の流れのごとく匂ひ来
ハガクレニ ホオハハナサキ ヒトスヂノ ミズノナガレノ ゴトクニオヒク
『風水』(沖積舎 1986) p.173
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (2)
03718
着替へして出でゆく用のあるはよし朝の声音に鳥も鳴くなり
キガヘシテ イデユクヨウノ アルハヨシ アサノコワネニ トリモナクナリ
『風水』(沖積舎 1986) p.174
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (3)
03719
コンサートのための暗譜をしてゐたり夢に出で来し少女のわれは
コンサートノ タメノアンプヲ シテヰタリ ユメニイデコシ ショウジョノワレハ
『風水』(沖積舎 1986) p.174
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (4)
03720
何をして冬を越ししや畦道は幅いつぱいに若草のいろ
ナニヲシテ フユヲコシシヤ アゼミチハ ハバイツパイニ ワカクサノイロ
『風水』(沖積舎 1986) p.174
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (5)
03721
山越えてあがる凧ありうら若き父とその子の走るならずや
ヤマコエテ アガルタコアリ ウラワカキ チチトソノコノ ハシルナラズヤ
『風水』(沖積舎 1986) p.175
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (6)
03722
くぐもれる声に鳴きつつゐる鳩の飛びたつときに音あらあらし
クグモレル コエニナキツツ ヰルハトノ トビタツトキニ オトアラアラシ
『風水』(沖積舎 1986) p.175
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (7)
03723
男言葉女言葉のけぢめなく語らひゆけり若き人らは
オトココトバ オンナコトバノ ケヂメナク カタラヒユケリ ワカキヒトラハ
『風水』(沖積舎 1986) p.175
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (8)
03724
まる見えに立ちて一日働くはつらからむ白のハイヒール履く
マルミエニ タチテイチニチ ハタラクハ ツラカラムシロノ ハイヒールハク
『風水』(沖積舎 1986) p.176
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (9)
03725
いきいきとレジ打つさまに見とれしがうとむにもあらずわれの職場を
イキイキト レジウツサマニ ミトレシガ ウトムニモアラズ ワレノショクバヲ
『風水』(沖積舎 1986) p.176
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (10)
03726
立ち退きの終れる広き工場跡古りし祠のありて残さる
タチノキノ オワレルヒロキ コオバアト フリシホコラノ アリテノコサル
『風水』(沖積舎 1986) p.176
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (11)
03727
母ならで聞くはうとまし幼な子のあたりかまはぬ声に泣くなり
ハハナラデ キクハウトマシ オサナゴノ アタリカマハヌ コエニナクナリ
『風水』(沖積舎 1986) p.177
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (12)
03728
遠き日に失ひてをり買物籠をみたして帰るよろこびなども
トオキヒニ ウシナヒテヲリ カイモノカゴヲ ミタシテカエル ヨロコビナドモ
『風水』(沖積舎 1986) p.177
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (13)
03729
針金の錆びてまつはる垣などを予想してゐるわれかと思ふ
ハリガネノ サビテマツハル カキナドヲ ヨソウシテヰル ワレカトオモフ
『風水』(沖積舎 1986) p.177
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (14)
03730
をりをりに炎あげつつ野火は燃え暮れゆく山のたちまち黒し
ヲリヲリニ ホノオアゲツツ ノビハモエ クレユクヤマノ タチマチクロシ
『風水』(沖積舎 1986) p.178
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (15)
03731
新幹線は動かずと言へり春雪に阻まれてしまふ逢ひなどあらむ
シンカンセンハ ウゴカズトイヘリ シュンセツニ ハバマレテシマフ アヒナドアラム
『風水』(沖積舎 1986) p.178
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (16)
03732
盤をかこみ老いし人らのなす遊び球はぶつかりにぶき音立つ
バンヲカコミ オイシヒトラノ ナスアソビ タマハブツカリ ニブキオトタツ
『風水』(沖積舎 1986) p.178
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (17)
03733
三十年経て忘られず道だけが残りてゐたる空中写真
サンジュウネン ヘテワスラレズ ミチダケガ ノコリテヰタル クウチュウシャシン
『風水』(沖積舎 1986) p.179
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (18)
03734
予測してゐたる通りに告げられて飛びのくやうな思ひをなせり
ヨソクシテ ヰタルトオリニ ツゲラレテ トビノクヤウナ オモヒヲナセリ
『風水』(沖積舎 1986) p.179
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (19)
03735
トルソーの胸にも深く響きゐむガラス戸に鳴る木々の嵐は
トルソーノ ムネニモフカク ヒビキヰム ガラスドニナル キギノアラシハ
『風水』(沖積舎 1986) p.179
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (20)
03736
計算器のボタン押しつつ思ひ出づ暗算に母はひいでいましき
ケイサンキノ ボタンオシツツ オモヒイヅ アンザンニハハハ ヒイデイマシキ
『風水』(沖積舎 1986) p.180
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (21)
03737
職場は地獄などと思ふにあらねども穴より出でしごとくに歩む
ショクバハジゴク ナドトオモフニ アラネドモ アナヨリイデシ ゴトクニアユム
『風水』(沖積舎 1986) p.180
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (22)
03738
つながねば見えぬ星座もさびしけれおぼろに高き春の夜の空
ツナガネバ ミエヌセイザモ サビシケレ オボロニタカキ ハルノヨノソラ
『風水』(沖積舎 1986) p.180
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (23)
03739
ひさびさの休日の朝わが庭の羊歯はけぶらふさまに茂りぬ
ヒサビサノ キュウジツノアサ ワガニワノ シダハケブラフ サマニシゲリヌ
『風水』(沖積舎 1986) p.181
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (24)
03740
隠し絵の女の顔に見覚えのありてやさしく春の夜をゐる
カクシエノ オンナノカオニ ミオボエノ アリテヤサシク ハルノヨヲヰル
『風水』(沖積舎 1986) p.181
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (25)
03741
飲み慣れし薬といへど散りやすくガラスの粉のやうなざらざら
ノミナレシ クスリトイヘド チリヤスク ガラスノコナノ ヤウナザラザラ
『風水』(沖積舎 1986) p.181
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (26)
03742
振り向けば壁に立つ影声もなし流れ着きたる岸辺かここは
フリムケバ カベニタツカゲ コエモナシ ナガレツキタル キシベカココハ
『風水』(沖積舎 1986) p.182
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (27)
03743
地球ごと滅ぶるは何時砂をゑぐる駱駝の足を画面は捉ふ
チキュウゴト ホロブルハイツ スナヲヱグル ラクダノアシヲ ガメンハトラフ
『風水』(沖積舎 1986) p.182
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (28)
03744
跳びはねて帰りゆきしがあやつりの狐も今は眠れるころか
トビハネテ カエリユキシガ アヤツリノ キツネモイマハ ネムレルコロカ
『風水』(沖積舎 1986) p.182
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (29)
03745
どのやうに生きても一生繭なさぬ糸を吐きつぐ一生もあらむ
ドノヤウニ イキテモヒトヨ マユナサヌ イトヲハキツグ ヒトヨモアラム
『風水』(沖積舎 1986) p.183
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (30)
03746
骨として埋めらるるまで幾日か死にたらむ後もいまいましけれ
ホネトシテ ウメラルルマデ イクニチカ シニタラムノチモ イマイマシケレ
『風水』(沖積舎 1986) p.183
【初出】
『短歌』 1980.7 岸辺かここは (31)