杉匂ふ


03818
裁ち屑を掃きよせをればひとかたに集まるごとしわれの思ひも
タチクズヲ ハキヨセヲレバ ヒトカタニ アツマルゴトシ ワレノオモヒモ

『風水』(沖積舎 1986) p.212
【初出】 『短歌現代』 1981.5 杉匂ふ (1)


03819
夢に来てつくづくとものを言ひゆけり病の篤き人かと思ふ
ユメニキテ ツクヅクトモノヲ イヒユケリ ヤマイノアツキ ヒトカトオモフ

『風水』(沖積舎 1986) p.212
【初出】 『短歌現代』 1981.5 杉匂ふ (2)


03820
働きて狭く生きつつ死に顔に知れるのみなるおもかげ幾つ
ハタラキテ セマクイキツツ シニガオニ シレルノミナル オモカゲイクツ

『風水』(沖積舎 1986) p.213
【初出】 『短歌現代』 1981.5 杉匂ふ (3)


03821
珊瑚樹の垣の内より声のして幼き者ら何を争ふ
サンゴジュノ カキノウチヨリ コエノシテ オサナキモノラ ナニヲアラソフ

『風水』(沖積舎 1986) p.213
【初出】 『短歌現代』 1981.5 杉匂ふ (4)


03822
見舞ひたるこころも知らず戦場に散ればよかりしなどと言ふなり
ミマヒタル ココロモシラズ センジョウニ チレバヨカリシ ナドトイフナリ

『風水』(沖積舎 1986) p.213
【初出】 『短歌現代』 1981.5 杉匂ふ (5)


03823
日のさして明るき刈り田一対の電線ありて麓をめぐる
ヒノサシテ アカルキカリタ イツツイノ デンセンアリテ フモトヲメグル

『風水』(沖積舎 1986) p.214
【初出】 『短歌現代』 1981.5 杉匂ふ (6)


03824
杉山の芽ぶきのときを立ちこめて雄のけものの匂ひと思ふ
スギヤマノ メブキノトキヲ タチコメテ オスノケモノノ ニオヒトオモフ

『風水』(沖積舎 1986) p.214
【初出】 『短歌現代』 1981.5 杉匂ふ (7)


03825
暮れあひの空より雪は舞ひ出でて背後を見せぬビル立ち並ぶ
クレアヒノ ソラヨリユキハ マヒイデテ ハイゴヲミセヌ ビルタチナラブ

『風水』(沖積舎 1986) p.214
【初出】 『短歌現代』 1981.5 杉匂ふ (8)


03826
雪の日の静かなる街つぎつぎに畳まれてゆく傘を見てゐし
ユキノヒノ シズカナルマチ ツギツギニ タタマレテユク カサヲミテヰシ

『風水』(沖積舎 1986) p.215
【初出】 『短歌現代』 1981.5 杉匂ふ (9)


03827
亡き人をふやしつつ来ていつとなくたのまずなりぬ後生のことも
ナキヒトヲ フヤシツツキテ イツトナク タノマズナリヌ ゴシヤウノコトモ

『風水』(沖積舎 1986) p.215
【初出】 『短歌現代』 1981.5 杉匂ふ (10)