音を吸はせて

いづこなる太々と目覚ましの絨緞に背後などタクシーの人の手に癒えがたき

03842
いづこなる春のうしほに育ちたる若布か水に浸せば匂ふ
イヅコナル　ハルノウシホニ　ソダチタル　ワカメカミズニ　ヒタセバニオフ

『風水』(沖積舎　1986)　p.223
【初出】　『形成』　1981.6　「無題」　(１)


03843
太々と葉をひろげゐてクレパスに児のゑがきたる水仙の花
フトブトト　ハヲヒロゲヰテ　クレパスニ　コノヱガキタル　スイセンノハナ

『風水』(沖積舎　1986)　p.223
【初出】　『形成』　1981.6　「無題」　(２)


03844
目覚ましの電池の切るるころならむ不意に思ひて落ちつかずなる
メザマシノ　デンチノキルル　コロナラム　フイニオモヒテ　オチツカズナル

『風水』(沖積舎　1986)　p.224
【初出】　『形成』　1981.6　「無題」　(３)


03845
絨緞に音を吸はせて何事をなし来し人か歩み去りたり
ジュウタンニ　オトヲスハセテ　ナニゴトヲ　ナシコシヒトカ　アユミサリタリ

『風水』(沖積舎　1986)　p.224
【初出】　『形成』　1981.6　「無題」　(４)


03846
背後など母に似て来しわれならむ狼煙を仰ぎゐるとき思ふ
ハイゴナド　ハハニニテコシ　ワレナラム　ノロシヲアオギ　ヰルトキオモフ

『風水』(沖積舎　1986)　p.224
【初出】　『形成』　1981.6　「無題」　(５)


03847
タクシーの窓のガラスの幅だけの帯のやうなる枯れ野を行けり
タクシーノ　マドノガラスノ　ハバダケノ　オビノヤウナル　カレノヲユケリ

『風水』(沖積舎　1986)　p.225
【初出】　『形成』　1981.6　「無題」　(６)


03848
人の手に刻まれて立つ像ながらはろばろといます観音像は
ヒトノテニ　キザマレテタツ　ゾウナガラ　ハロバロトイマス　カンノンゾウハ

『風水』(沖積舎　1986)　p.225
【初出】　『形成』　1981.6　「無題」　(７)


03849
癒えがたき風邪なりしかど吉凶のいづれともなく三月はゆく
イエガタキ　カゼナリシカド　キッキョウノ　イヅレトモナク　サンガツハユク

『風水』(沖積舎　1986)　p.225