作業音

さかしらを歯の神経あなうらに吹きすさぶいりくめる食べもののたくらみも

03850
さかしらを思ひて寝しがあくる日の職場にわれの常とかはらず
サカシラヲ　オモヒテネシガ　アクルヒノ　ショクバニワレノ　ツネトカハラズ

『風水』(沖積舎　1986)　p.226
【初出】　『形成』　1981.8　「無題」　(１)


03851
歯の神経などに触れつつ道を削る作業の音も十日ばかりか
ハノシンケイ　ナドニフレツツ　ミチヲケズル　サギョウノオトモ　トオカバカリカ

『風水』(沖積舎　1986)　p.226
【初出】　『形成』　1981.8　「無題」　(２)


03852
あなうらに未だ響きの伝はると遠ざかり来し滝を見返る
アナウラニ　イマダヒビキノ　ツタハルト　トオザカリコシ　タキヲミカエル

『風水』(沖積舎　1986)　p.227
【初出】　『形成』　1981.8　「無題」　(３)


03853
吹きすさぶ春の嵐を戻り来て固まりてゐる感情一つ
フキスサブ　ハルノアラシヲ　モドリキテ　カタマリテヰル　カンジョウヒトツ

『風水』(沖積舎　1986)　p.227
【初出】　『形成』　1981.8　「無題」　(４)


03854
いりくめる海岸線は地図の上共に住みにし日も遠ざかる
イリクメル　カイガンセンハ　チズノウエ　トモニスミニシ　ヒモトオザカル

『風水』(沖積舎　1986)　p.227
【初出】　『形成』　1981.8　「無題」　(５)


03855
食べものの好みの今に思はれてレモンニ粒磨きて供ふ
タベモノノ　コノミノイマニ　オモハレテ　レモンフタツブ　ミガキテソナフ

『風水』(沖積舎　1986)　p.228
【初出】　『形成』　1981.8　「無題」　(６)


03856
たくらみもなくて物編む指先を今宵のわれをいづこより見る
タクラミモ　ナクテモノアム　ユビサキヲ　コヨイノワレヲ　イヅコヨリミル

『風水』(沖積舎　1986)　p.228
【初出】　『形成』　1981.8　「無題」　(７)