とぎれてしまふ


03903
風邪のあとの身をたゆくゐし夕まぐれ人に頼めぬ買ひものに出づ
カゼノアトノ ミヲタユクヰシ ユウマグレ ヒトニタノメヌ カヒモノニイヅ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.7
【初出】 『短歌研究』 1984.1 雨の記憶 (1)


03904
駅前の放置自転車神々に見はなされたる病のごとし
エキマエノ ホウチジテンシャ カミガミニ ミハナサレタル ヤマヒノゴトシ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.8
【初出】 『短歌研究』 1982.1 今に迷ひて (3)


03905
行き着かぬ思ひにをれば昼過ぎて煙のごとき雨の降り出づ
ユキツカヌ オモヒニヲレバ ヒルスギテ ケムリノゴトキ アメノフリイヅ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.8
【初出】 『短歌研究』 1982.1 今に迷ひて (4)


03906
槇の葉を打つ雨だれを見てゐしがまして乱るる犬蓼の葉は
マキノハヲ ウツアマダレヲ ミテヰシガ マシテミダルル イヌタデノハハ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.9
【初出】 『短歌研究』 1982.1 今に迷ひて (5)


03907
妻を得てユトレヒトに今は住むといふユトレヒトにも雨降るらむか
ツマヲエテ ユトレヒトニ イマハスム トイフユトレヒトニモ アメフルラムカ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.9
【初出】 『短歌研究』 1982.1 今に迷ひて (6)


03908
気圧の谷のゆくへを示す指先に父島母島小さき点なす
キアツノタニノ ユクヘヲシメス ユビサキニ チチジマハハジマ チサキテンナス

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.10
【初出】 『短歌研究』 1982.3 春寒のころ (6)


03909
二つめの目ざまし時計鳴り出でてとぎれてしまふ夢ばかりなる
フタツメノ メザマシドケイ ナリイデテ トギレテシマフ ユメバカリナル

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.10
【初出】 『短歌研究』 1982.3 春寒のころ (7)


03910
引き返すとすればいつごろなりしやと思ふことあり今に迷ひて
ヒキカエス トスレバイツゴロ ナリシヤト オモフコトアリ イマニマヨヒテ

『印度の果実』(短歌新聞社 1986) p.11
【初出】 『短歌研究』 1982.1 今に迷ひて (7)